半導体

 コンピュータはデジタル回路で構成されていることは既に説明しました。このデジタル回路は当初は、リレーを使って実現されましたが、その後真空管で実現されるようになりました。リレーは半分機械式、半分電子式のデバイスですので、動作速度に問題があります。その点真空管は完全に電子式ですので、非常の高速に動作します。しかし、発熱量が大きく、フィラメントが切れやすいという問題があります。その後開発されたのが半導体です。半導体は発熱量が小さく、真空管のようにすぐに切れてしまうということがありませんので、信頼性が数千倍にも向上したといわれています。その上、真空管に比較して、非常に小さいという利点があります。リレー式や、真空管式の計算機は、ビルのワンフロアーを占拠してしまうほど大きな構造物になってしまうのですが、これを半導体に置き換えると、机ほどの大きさにまで小さくすることができました。

※半導体技術がさらに進むと、トランジスタ、抵抗、コンデンサ、ダイオードなどの多数の微細な電子デバイスを1つの半導体基板の上で連結する技術が開発されます(ICチップ)。現在は1つのICチップに何十億、何百億の回路が作り込まれています。




1 半導体とは何か?

 コンピュータの基本的な部分は概ね半導体でできていますが、この半導体とは一体どんなものでしょうか。半導体は英語ではsemiconductor(セミコンダクタ)です。conductor(コンダクタ)は導体のことで、semi(セミ)ですから、半(分)導体ということになります。導体は電気をよく通す物体です。電気を通すのは、高校の物理の知識では電子(自由電子)の役割です。自由電子とはいったい何でしょうか?その前に電子のことを考えてみましょう。

 電子は原子核の周りをぐるぐる回っています。ぐるぐる回っているといっても勝手気ままに回っているわけではなく、軌道を回っています。

※高校物理のレベルですと、原子核の周りを平面的な円を描いて回っているイメージですが、実際の電子軌道は「電子の存在しうる空間」のことです。ここで、空間とは、電子の存在確率のことを意味します。電子軌道はそこに電子が存在する確率が高いことを意味しています。イメージしやすい言葉で言えば、「雲のようにぼーっと」存在する空間のことです。

 原子核の周りのぼーっとした雲のような軌道上を電子がぐるぐる回っています。軌道上を回っている電子は原子核の束縛を受けている状態です。この原子核の束縛を受けて動いている電子が何らかの理由で、原子核からの束縛を離れて自由に移動できるようになります。これが自由電子です。(自由)電子はマイナスの電荷をもちますので、電圧をかけると、プラスの電極にひかれて動き出します。そして、電子の流れた反対の方向に電気が流れたと考えます(そんなこと分かっているよという言葉が聞こえてきそうですが)。

 自由電子が多いと電気が流れやすく、その物体は導体と呼ばれます。金、銀、銅、アルミなどが代表的な導体で、ケーブルの芯線などに使われます。金属以外で、よく電気を通すものとしては、黒鉛などが有名です。

※電気の通しやすさは電気伝導率といいます。電気伝導率は銀>銅>金>アルミニウムの順ですが、銀は高価ですので、電線としては主として銅が利用されています。

 自由電子が殆どなくて電気を流さない物質を絶縁体(insulator)といいます。絶縁体としては石やガラス、ゴム、プラスチックなどがあります。

 では、半導体(semiconductor)はどうでしょうか?導体の半分くらいの電気を流すのが、半導体かと思うかも知れませんが、そうではありません。半導体は熱や圧力、光、電圧や電流などのなどの様々な条件によって、電気の通り方が変化する物質です。

 半導体とされるのはシリコン(ケイ素、Si)、ゲルマニウム(Ge)などの単体や、ガリウムヒ素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)などの化合物です。

 次に示したのは周期律表の一部です。半導体が含まれる部分だけを取り出しました。周期律表では物理的、化学的に似ている元素が縦に並ぶように配列されています。縦に並んだ列を「族」といいます。単体で半導体とされる元素は青く塗りつぶしてあります。半導体とされる単体の物質(元素)は13~17族に並んでいます。

※灰色の元素は金属、黄色の元素は非金属です。

13 14 15 16 17 18
5 6 7 8 9 10 原子番号
B C N O F Ne 元素記号
13 14 15 16 17 18 原子番号
Al Si P S Cl Ar 元素記号
31 32 33 34 35 36 原子番号
Ga Ge As Se Br Kr 元素記号
49 50 51 52 53 54 原子番号
In Sn Sb Te I Xe 元素記号
81 82 83 84 85 86 原子番号
Tl Pb Bi Po At Rn 元素記号

 18族には1つも半導体がありません。18族には特別な名前がついていて「希ガス」といいます。とても安定した物質で、他の元素と化合物をつくりません。

 電子部品の材料としてよく利用される半導体はシリコンとゲルマニウムですが、これらは共に14族の元素です。また、ガリウムヒ素や窒化ガリウムを考えると何れも13族と15族の化合物ですから、平均すると14族?(平均していいのかいという突っ込みがありそうですが)。

 このあたりに半導体の秘密が隠れているのかも知れません。このあたりのことを少し調べ見ましょう。

 原子は原子核と電子で構成されます。原子核は更に陽子と中性子からできています。

※量子力学的にはもっと細かく分かれるようです。陽子や中性子はクォークからできています。そして、現在のところクォークは6種類見つかっています。電子については、現在のところ何からできているかについては、実験的な兆候は出ていないようですが、電子の他に電子と似た性質を持ち質量が異なるミュー粒子と、タウ粒子が見つかっています。更に、電子、ミュー粒子、タウ粒子のそれぞれとペアになる電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノが見つかっています。これ以上については素粒子論の本で学んでください。

 陽子はプラスの電荷をもち、電子はマイナスの電荷をもっています。そして、陽子のプラスの電荷と電子のマイナスの電荷は釣り合っています。例えば、最も小さな原子である水素はプラスの電荷をもつ陽子を1つ、マイナスの電荷をもつ電子を1つ持っています。中性子は電荷は持っていません。

 原子は電気的には釣り合っていて陽子を2つ持つ場合は、電子も2つ持っています。各電子は原子番号と同じ数だけに陽子と電子を持っています。周期律表を見るとシリコンは14番となっています。これはシリコンが14個の陽子と、14個の電子を持っているという意味です。ゲルマニウムは32番ですから32個の陽子と、32個の電子を持っています。これらの電子が軌道上を回っています。同じ軌道上を回っているのでしょうか。同じ軌道上を回っていると渋滞しそうです。実際は軌道はいくつかあって、各軌道ごとに定員が決まっていると思ってください。

 電子の軌道は内側からK殻、L殻、M殻、N殻と分かれます。一番内側のK殻にはs軌道と呼ばれる軌道があり、ここに2つの電子を収容することができます。内側から2番目のL殻には、s軌道が1つ、p軌道と呼ばれる軌道が3つあります。3つのp軌道はそれぞれpx、py、pzと呼ばれています。p軌道にも各2個ずつの電子が入ることができますので、L殻には合計で、8個の電子を収容することができます。M殻はどうでしょうか?M殻はs軌道が1つ、p軌道が3つ、これ以外にd軌道という軌道が5つ加わります。各軌道がやはり2個ずつの電子を収容できますので、18個の電子を収容することができます。

 K殻、L殻、M殻でもs軌道、p軌道と同じ名前の軌道が出てきて混乱しますので、それぞれ区別されます。K殻は1番内側なので、K殻のs軌道は1s軌道、L殻は内から2番目なので2s軌道ということになります。L殻のp軌道は2pとなります。少しわかりにくいので一覧表にまとめてみます。

主量子数 電子殻 軌道名 方位量子数 磁気量子数 収容できる電子数
1 K殻 1s 0 0 2
2 L殻 2s 0 0 2
2p 1 0,±1 6
3 M殻 3s 0 0 2
3p 1 0,±1 6
3d 2 0,±1,±2 10
4 N殻 4s 0 0 2
4p 1 0,±1 6
4d 2 0,±1,±2 10
4f 3 0,±1,±2,±3 14

 主量子量は軌道の大きさとエネルギーに関係する値で、電子殻のK殻、L殻、M殻、N殻(更に、O殻、P殻、Q殻)に対応しています。方位量子量は軌道の形を決定している値です。これは、s軌道、p軌道、d軌道、f軌道に対応しています。磁気量子量は各軌道を決定している値です。

 2p軌道は3つあり、三次元空間の3方向2px、2py、2pzとx、y、z軸方向に対応しています。図で示すとすれば、各軌道は次のようになります。


 各軌道の図形は先が膨らんで中心はすぼんでいます。これは電子が確率的に存在していることを表現しています。膨らんでいるところは電子が存在する確率が高く、すぼんでいるところはその確率が低くなります。電子は⊖の電気を持っているため、陽子の⊕電気に反発するためです。

 上の例は2pの例ですが、3pはもっと大きな、外側の軌道になります。4pは更に大きな、外側軌道になります。電子はエネルギーの低い順に1s→2s→2p→3s→3p→3d→・・・と収容されていきます。

 一つの電子軌道には電子が2個しか入ることができません。そして、その電子はお互いに逆向きにスピンしています(パウリの排他原理)。電子はスピンしながら自転しています。太陽の周りをまわっている地球、あるいは地球の周りをまわっている月などと同じです。電子はマイナスの電荷を帯びています。電荷をもった物質が回転すると磁力が発生します。一つの軌道の2つの電子が互いに逆方向にスピンしているということは、お互いの磁力を打ち消し合っているということになります。

 各元素は原子番号の数だけ電子を持っています。この電子はどのような順に軌道に収容されていくのでしょうか。基本的には内側の殻の軌道から収容されていきます。この点については、先ほども言った通りエネルギーの低い順に1s→2s→2p→3s→3p→3d→・・・となります。s軌道についてはそれぞれの殻に1つの軌道しかありませんので問題ありませんが、p軌道、d軌道については同じエネルギーの軌道が複数あります。例えばp軌道の場合は3つありますが、最初に各軌道に1つずつ電子が収容されていきます。また、これらの電子は全て同じ向きに回転しています。

 各元素の電子配置は次の通りです。

元素記号 原子番号 K L M N
最大電子数 2 2 6 2 6 10 2 6 10 14
1第1周期 1s 2s 2p 3s 3p 3d 4s 4p 4d 4f
1 H 1 1
18 He 2 2
第2周期 1s 2s 2p 3s 3p 3d 4s 4p 4d 4f
1 Li 3 2 1
2 Be 4 2 2
13 B 5 2 2 1
14 C 6 2 2 2
15 N 7 2 2 3
16 O 8 2 2 4
17 F 9 2 2 5
18 Ne 10 2 2 6
第3周期 1s 2s 2p 3s 3p 3d 4s 4p 4d 4f
1 Na 11 2 2 6 1
2 Mg 12 2 2 6 2
13 Al 13 2 2 6 2 1
14 Si 14 2 2 6 2 2
15 P 15 2 2 6 2 3
16 S 16 2 2 6 2 4
17 Cl 17 2 2 6 2 5
18 Ar 18 2 2 6 2 6
第4周期 1s 2s 2p 3s 3p 3d 4s 4p 4d 4f
1 K 19 2 2 6 2 6 1
2 Ca 20 2 2 6 2 6 2
3 Sc 21 2 2 6 2 6 1 2
4 Ti 22 2 2 6 2 6 2 2
5 V 23 2 2 6 2 6 3 2
6 Cr 24 2 2 6 2 6 5 1
7 Mn 25 2 2 6 2 6 5 2
8 Fe 26 2 2 6 2 6 6 2
9 Co 27 2 2 6 2 6 7 2
10 Ni 28 2 2 6 2 6 8 2
11 Cu 29 2 2 6 2 6 10 1
12 Zn 30 2 2 6 2 6 10 2
13 Ga 31 2 2 6 2 6 10 2 1
14 Ge 32 2 2 6 2 6 10 2 2
15 As 33 2 2 6 2 6 10 2 3
16 Se 34 2 2 6 2 6 10 2 4
17 Br 35 2 2 6 2 6 10 2 5
18 Kr 36 2 2 6 2 6 10 2 6

 原子番号18のアルゴン(Ar)までは、内側から順に電子が収容されていますが、19番のカリウム(K)から少し順番が怪しくなっています。電子の軌道が原子核から離れると、原子核の電子に及ぼす影響力(引き付ける力)が弱くなり、その分電子間の相互作用の影響が大きくなります。d軌道の充填などではスピン間の相互作用などの影響で、順番通りに収容できない場合も出てきます。

 もっとも外側にある電子殻(最外殻電子殻)の軌道上にどのように電子が充填されているかでその元素の物理的・化学的な性質が決まります。18族の希ガス類は最外殻の電子が一杯になっているので、安定しています。

 ナトリウム(Na)やカリウムなどのアルカリ金属類は希ガスに電子を1個追加した配置になっていますので、電子を1個取り出して、希ガスと同じ電子配置になった方が、安定します。電子1個を取り出すと、マイナス電荷の電子が1つ抜けた計算になりますので、結果としてプラス1となります。つまり、Na+、K+などの一価の陽イオンになりやすいということになります。同様の理由で、カルシウムなどのアルカリ土類金属は2価の陽イオンに、フッ素や塩素などのハロゲン族は1価の陰イオンになりやすいということになります。

 すっかり横道にそれてしまいましたので、半導体の話に戻したいと思います。シリコン(Si)はM殻の4つの軌道に電子を持っています。従って、この4つの電子を手放してSi4+になるか、4つの電子を更に取り込んでSi4-になるか、ちょうど中間の辺りにいることになります。

 シリコンの最外殻の電子の配置を意識すると次のようなモデルを作ることができます。


 周りの4つの線は最外殻の電子を表しますが、これは結合の手と考えても間違いではないでしょう。この結合の手で互いに結合しあうと次のような結晶ができます。


 このような状態のときは、電子を4個隣の原子にとられるとか、隣の原子から4個もらうということではなくて、隣の4つの原子とそれぞれ2つの電子を共有し合っています(共有結合)。従って、電気的にはプラスマイナスゼロとなります。

 上のような図だと平面的な結晶と勘違いしてしまうかも知れませんが、実際は次のような正三角錐の4つの頂点に結合の手が向いているようになっています。ただこの立方体のような構造が互いに結合し合う図は難しくて描けませんので、皆さんは頭の中で想像してください。


 これでようやく半導体の話をする準備が整いました。今まで主として原子単体の話をしてきましたが、原子が密集して互いに結合の手を伸ばすと、少し様子が違ってきます。最外殻軌道が電子でいっぱいの状態になると、各原子核の力や、電子同士の力などで軌道が少し広がった状態になります。また、最外殻の外側に軌道が現れることもあります。電子が何らかの理由で、最外殻の外側に新しく出現した軌道に飛び移ることができれば、その電子は自由に動き出すことができます。


 これはシリコンをイメージして書いた図ですが、導体だと次のような感じになります。


 導体だと最外殻の外にできた電子が自由に動き回れる道(これは伝導帯といいます)が、最外殻とくっついた状態になります。軌道は外側になればなるほど高いエネルギーとなります。従って、導体の場合に最外殻の外側にできる伝導帯(conduction band)と最外殻の軌道(これは充満帯と呼ばれます)の間のエネルギーの差が余りないということになります。シリコンは、純粋な結晶ではほとんど電気を流すことができませんが、これはシリコンの場合伝導帯と、充満帯(valence bond band)の持つエネルギーの差(エネルギーギャップ、Eg)が大きいので、電子が伝導帯までジャンプできないためです。

 充満帯と伝導帯に挟まれた部分は禁止帯(forbidden band)と呼ばれます。禁止帯の幅はエネルギーギャップと呼ばれ、eVを単位として表されます。エネルギーギャップの例を上げてみましょう。

エネルギーギャップ(単位:eV)
Ge 0.73
Si 1.21
ZnSb 0.56
AlSb 1.60
GaP 2.4
GaAs 1.45
InSb 0.23
ZnS 3.7
ダイヤモンド 5.33

 伝導帯と充満帯の間のエネルギーの差を何らかの方法で補うことができれば、充満帯の軌道上を回っている電子が、伝導帯にまでジャンプして、自由に動けるようになります(自由電子になります)。電子を充満帯から伝導帯にジャンプさせることができるのは、熱エネルギーです。しかし、あるエネルギーを与えられると、これだけジャンプするというように決まっているわけではありません。どれくらいジャンプするかはボルツマン分布という数学的な式に従っています。ある熱量を加えると、電子がぴょんぴょんと禁止帯を飛び越えようとします。すごく飛び上がる電子もあれば、あまり飛び上がらないものもあるということです。禁止帯を飛び越える電子があると、それが自由電子となります。



 絶縁物質の場合は、禁止帯が広く(エネルギーギャップが大きく)、電子は伝導帯までジャンプすることができません。

※禁止帯の広さをバンド幅(あるいはバンドギャップ)ということもあります。


 これに対して、導体の場合は伝導帯が充満帯に非常に近く、物質によっては殆どくっついてしまっているものもあります。そのため、電子は簡単に自由電子になることができます。


 半導体の場合は、禁止帯の幅が手ごろで、加減を調節することで電子を簡単に伝導帯に移動させるか、移動させないか制御することができるようになります。

 室温程度の温度では、エネルギーは普通0.03eVとされています。Siのエネルギーギャップは1.21eVですので、室温程度では禁止帯を飛び越える電子はめったにないということになります。

 半導体としてよく利用される単体物質は、シリコン(Si)とゲルマニウム(Ge)です。バンド幅は先ほど見たようにゲルマニウムの方が小さいので、初期のトランジスタではゲルマニウムがよく利用されました。やがてシリコンが登場します。シリコンはバンド幅がゲルマニウムよりも大きいので、動作さるために高い電圧を必要としますが、動作が安定しているため、ゲルマニウムに取って代わります。

※現在は特殊用途のもの以外は殆どシリコンが利用されています。シリコン(ケイ素、珪素)は砂や石の主成分ですので、地球上に豊富に存在しています(非常に安価です)。

※シリコン、ゲルマニウムは14族ですが、14族なら全部半導体になるかというとそうもいきません。スズ(Sn)と鉛(Pb)はバンド幅が小さすぎて金属(導体)となってしまいます。これに対してCは絶縁物となります(炭素の結晶のダイヤモンド。ただし、結晶していない炭素は伝導体になります)。

 シリコンは元々は石の成分ですので、このままでは電気を通すことができません。シリコンに電気を流すために重要な働きをするのが不純物です。ただいい加減に不純物が入っているのではだめですので、初めに徹底的に精製して純度を高めます。その純度は99.999999999%というとてつもないもので、9が11個連続していますので、イレブン・ナインと呼ばれています。この徹底的に精製したシリコンは「真正半導体」と呼ばれます。このままでは、ほとんど実用性はありません。この徹底的に精製したシリコンに少量の不純物を混ぜます。不純物は何でもいいというわけではありません。実際に混ぜられるのは、13族の元素か、15族の元素です。シリコンが14族の元素で結合の手(最外殻の電子)を4本持っていることを思い出してください。13族は結合の手を3つ、15族は結合の手を5つ持っています。

 15族の例としては、窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)などがあります。不純物としてよく利用されるのはヒ素です。ヒ素のモデルは次のように表されます。


 このヒ素(As)を不純物として少量混ぜると(1000分の1程度)、次のようになります。


 ヒ素の電子が1つ余ってしまいました。最外殻の電子5つのうち4つはがっちりと結晶構造の中に組み込まれてしまっているので、身動きが取れない状態ですが、残りの1つは結合する相手がいません。Asの中では⊕と⊖は釣り合っています。しかし、⊕は原子核の中の要素ですので、動くことはできません。これに対して、独りぼっち残されてしまった1つの電子は、原子核の中の陽子から引っ張られるだけです。陽子とはだいぶ離れてしまっているので、何かの拍子にどこかに飛んで行ってしまうかもしれません。この電子は非常に自由電子になりやすい状態になっています。自由電子になるには、充満帯から、エネルギーギャップ(バンド幅)を飛び越えて、伝導帯まで飛び移らなくてはならないといいましたが、この独りぼっちになってしまった電子は、充満帯よりももっと、伝導帯の近くにいると考えられます。このことを独りぼっちになってしまった電子は「ドナーレベル」にいるといいます。

※結合の手である電子を5つ持っている原子は5価の原子といいますが、4価の原子の中に入ると、入った原子の数だけ電子を供給することになりますので、ドナー(donor)と呼びます。


 不純物として何を混ぜたかによっても異なりますが、SiにAsを不純物として混ぜた場合のエネルギーギャップは0.01eV位になります。これをAsによる不純物準位(ドナーレベル)といいます。室温27℃(絶対温度300度K)は、エネルギーレベルにすると0.026eV程度あります。

 では3価の不純物を入れるとどうなるでしょうか。13族の原子ですから、硼素(ホウ素、B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)などがあります。

 不純物としてよく利用されるインジウムの例で説明します。インジウムは3価ですので、結合の手が3つしかありません。


 これをシリコンに少量混ぜるとどうなるでしょうか。


 インジウムとシリコンが1つの電子で結合している部分があります。この1つの電子はどこかにふらふらと出て行ってしまうのでしょうか。そんなことはありません。この電子はシリコンの原子核にがっちりと引っ張られてしまっているので(つまり充満帯にいるので)、ふらふらとどこかに逃げていくことはできません。それでは、どうするのでしょうか?電子は1つではとても不安(不安定)ですので、もう一つの電子を欲しがります。この電子はもう一つ電子を欲しい、欲しいと思います。強く強く思うものですから、ここにプラスの電荷が現れます。これをホール(専門的には正孔といいます)といいます。

 このホールは自由電子のように動き出します。これは次のように考えることができます。


 インジウムは電子の手が1本足りませんので、Siの電子の手はもう1つの電子を引き付けようとします。この引き付けようとする力がホールとなります。しかし、Asのような物質はありませんので、自由電子はありません。そこで、無理やり隣の(充満帯の)電子を引き抜いてしまいます。引き抜かれる電子は伝導帯に飛び上がるわけではなく、充満帯の中を隣に移るだけですので、そんなに大きなエネルギーは必要ありません。そうすると、電子の元あったところが新しいホールとなります。このように考えると、ホールがどんどん動いていくことになります。


 前に使った伝導帯と禁止帯、充満帯の話(バンド理論といいます)ですと、今度はアクセプタとなります。In原子は電子を吸い取りますので、アクセプタ(acceptor)です。今度は先ほどと逆で、充満帯のすぐ近くにアクセプタレベルが現れます。充満帯とアクセプタレベルのエネルギーギャップは0.01eV程度になります。


 精製したシリコンは「真正半導体」ということは既に説明しましたが、真正半導体に不純物を混ぜ込んだ半導体は不純物半導体と呼びます。不純物半導体は混ぜ込む不純物の種類によって「N型半導体」と「P型半導体」に分かれます。

 リンやヒ素、アンチモンなど5価(15族)の物質を混ぜん込んだものをN型半導体といいます。4価のシリコンに5価の物質を混ぜ込むことで、電子が1つ余った状態になり、この余った電子が自由電子となります。

※N型半導体のNは電子の持っているマイナスの電荷(negative、ネガティブ)から来ています。

 不純物としてガリウムやインジウムなどの3価の物質を混ぜ込んだのがP型半導体です。3価の物質を混ぜ込むことで、電子が1つ不足した状態を作り出しこれがホールとなります。このホールはプラスに帯電した穴という意味で正孔と呼ばれています。

※この正孔は本当の穴ではなく事実上正電荷に帯電した粒子として振舞います。
※P型半導体のPはホールの持っているプラスの電荷(positive、ポジティブ)から来ています。

 P型半導体はホールだけではありません。ホールと自由に動ける電子の全体で100%だとすると、ホールが90%で、自由に動ける電子が10%程度存在しています。N型半導体の場合は、自由に動ける電子が90%で、ホールが10%程度ということになります。ホールや電子は、自分で動くことで電気のエネルギーを運びますので、キャリア(運搬者)と呼ばれます。P型半導体ではホールが多く、N型半導体では電子が多いので、これらは多数キャリア(majority)と呼ばれます。P型半導体では電子、N型半導体ではホールは少数派ですので、小数キャリア(minority)と呼ばれています。

 10%の電子やホールはどうして出てきたものでしょうか。90%の多数キャリアは不純物から飛び出したものですが、10%の小数キャリアは、シリコン原子から熱エネルギーの影響で電子とホールが1個ずつ飛び出してきたものです。P型半導体の中では電子はそうは長く存在できませんが、消えたとしてもまた別の電子とホールの一対が飛び出してきますので、全体としては10%程度でバランスしているということになります。




2 ダイオード

 ダイオードは整流作用を持つ半導体素子です。半導体素子とは、半導体を使って作った部品のことをいいます。整流作用とは電流を一定方向にだけ流す作用です。例えば、交流から直流を取り出すなどの機能を持ちます。

 実はダイオードの歴史は半導体以前から始まっています。1884年にはジョン・フレミング(フレミングの法則で有名、「フレミング右手の法則」、「フレミング左手の法則」)が真空管を発明しています。整流作用についてはエジソンが白熱電機の研究中に発見して、特許も取っています(エジソン効果)が、エジソンはそれ以上興味を持たず、放っておいたようです。エジソン効果に興味を持ったフレミングは研究を重ね真空管という大発明をしています。

 1884年の更に8年前の1876年にはセレン(Se)の整流作用が発見されています。周期律表を見ると、Seは16族の元素です。16族では第5周期(行)のTe(テルル)、第6周期のPo(ポロニウム)は半導体に分類されています。セレンは、Te、Poと同じ族で、周期はTeの1つ上の第4周期です。半導体に極めて近い性質を持っているといっていいと思います。セレン自体はP型半導体としての性質を持っています。

 セレン整流器は黄鉄鉱の表面に不均一に収着しているセレンを使っていましたが、やがて精錬技術が発達してくると、ゲルマニウムやシリコンなどの感度のいいものが安定的に作られるようになります。ゲルマニウムは熱に弱く、動作も不安定なので、現在は殆どがシリコンになっています。

 半導体としてのダイオード素子はPN接合と呼ばれる構造を持っています。これはP型半導体とN型半導体を貼り合わせた構造を持ち、接合面は「PN接合面」と呼びます。ダイオードはこのPN接合の特性を利用した素子です。P型半導体からの端子をアノード、N型半導体からの端子をカソードといい、アノードからカソードに流れる電流のみを通して、その逆の電流は殆ど通さないという働きがあります。

 ダイオードにはなぜ整流作用が生まれるのでしょうか。少し具体的に見てみましょう。

 とりあえずP型半導体と、N型半導体をくっつけてみましょう。どうなるでしょうか。

 
 P型半導体は自由に移動できるホールをたくさん持っています。N型半導体は自由電子をたくさん持っています。この2つをくっつけるとPN接合面近くのホールと自由電子が一体となり電気的にゼロとなります。


 ホールはN型半導体の方へ、自由電子はP型半導体の方に流れ込んでいきます。ところがこの流れ込みは、ほんの短い期間ですぐに止まってしまいます。何故でしょうか?


 PN接合面の近くのホールと自由電子は一体化してプラスマイナスゼロとなったとしても、まだホールと自由電子はたくさん残っています。これも全部流れ込んで行って一体化してしまってもよさそうですが、なぜそうならないのでしょうか?それは、接合面の近くに電圧の壁(電位障壁、potential barrier)ができてしまうからです。


 PN接合面の近くのホールと自由電子が流れ込んでしまった部分は、もうホールも自由電子もありませんので、空乏層といいます。N型半導体の右側の部分を見てください。この部分には自由電子がまだたくさんありますが、電気的には原子核の陽子の数との関係で中和しています。そして、N型半導体の空乏層は自由電子がP型の方に流れ込んでしまっていますので、電気的にはプラス状態です。これに対してP型半導体の空乏層はホールが相手側に流れ込んでしまっていますので、電気的にはマイナス状態です。そして、P型半導体の左側の部分は電気的に釣り合った状態です。

 次の図を見てください。空乏層の部分は電圧的に壁のようになっています。


 N型半導体の空乏層以外のところは電気的にプラスマイナスゼロでこの部分に自由電子がたくさんあります。P型半導体の空乏層以外の部分にはホールがたくさんあります。N型半導体の空乏層の部分は電気的にプラスです。この電気的にプラスの部分は、P型半導体のホールにとっては壁となります。P型半導体側のホールとN型半導体の空乏層のプラスの電荷が反発しあって、P型半導体のホールは反対側に流れ込むことができません。

 N型半導体の自由電子についても同じことが言えます。P型半導体の空乏層の部分は電気的にマイナスの深い溝のようになっています。この空乏層のマイナス部分とN型半導体の自由電子も反発しあって、N型半導体の自由電子は、反対側に流れていくことができません。

 では空乏層の電位の壁は電池としてエネルギーを取り出すことができるのでしょうか?これはできません。何故かというと、N型半導体のプラス電荷は、自由電子が流れて行ってしまった結果、原子核にある陽子の影響でプラスに帯電しているだけです。原子核のなかに封印された陽子は流れ出すことはできません。また、P型半導体のPN接合部近くのマイナスに帯電した部分はホールが流れてしまったために、それとペアだった電子によって帯電しているだけです。この電子は充満層にありますので、流れ出すことはできません。つまり、空乏層の電位は封入されてしまっている電位ですので、封入電圧(built-in potential)と呼ばれています。シリコンではPN接合で生じる封入電圧は0.7V程度です。

※ここまで、接着剤でP型半導体とN型半導体を貼り付けるような言い方をしましたが、そんなに簡単ではありません。絶対に隙間がないように2つの結晶を貼り付けなくてはなりません。必ず2つの結晶の接続面に凸凹があります。電子が通り抜けなくてはいけませんので、ほんの僅かな隙までも空いていることは許されません。実際には、PNは単結晶でつながっています。1つの結晶の中で途中まではP型、そこから先はN型となっていなくてはなりません。PNの接合部で結晶の出来が悪いと、きれいな電圧の壁ができません。出来が悪いと壁のところどころに穴が開き、整流の反対方向にも電流が流れてしまうことになります。


 それではN型半導体側の端子(カソード)とP型半導体の側の端子(アノード)を導線で結んでみたらどうでしょうか。N型半導体にはまだたくさんの自由電子があります。P型半導体にはたくさんのホールがあります。これが導線を伝って相手側に流れ込むことはできるでしょうか。もしそうなら、このとき、N型半導体の自由電子が流れ出した後にはホールができ、P型半導体のホールが流れ出した後にはマイナスの電荷が発生し、空乏層の壁を越えて、お互いに流れ込むはずです。これで永久機関(永久電池?)が出来上がります。もちろん、エネルギー源が何もないのですから、電池ができるわけはありません。つまり、導線でただつないだだけでは何も起こらないということになります。


 ではP型半導体のアノード側にマイナスの電圧をかけるとどうなるでしょうか。電源のマイナス側から流れ出す電子と、アノード側のプラスの電荷が打ち消し合います。N型半導体の電子も、電源のプラス側に流れ込みます。その結果、空洞層がさらに拡大します。

 これでおしまいでしょうか?この後、電源のエネルギーによってマイナス極から出た電子が、アノードからP型半導体に流れ込みます。この電子は空乏層を越えることができないのでしょうか?P型半導体の部分にはマイナス電荷に帯電した広い空乏層が広がっています。電子はこの広い空乏層を越えて、N型半導体の方に行けるのでしょうか?電源の力が大きければ越えられるのではないでしょうか?

 このあたりのところを説明するためにはフェルミレベルという考えた方が、必要になります。ちょっと分かりにくい概念ですので、分からないという人は、あまり悩まずに先に進んでください。

 フェルミレベルとは確率的な値です。電子がどのレベルまで存在するのが確率的な値として正しいと言えるかということです。実際にどのレベルに存在するかどうかとは関係ありません。あくまで、数学的な確率の話です。実際にどの程度電子が分布するかはフェルミ-デュラック分布関数に従います。

 次に示すのはN型半導体のバンド図です。


 ドナーレベルの8個が禁止帯を越えて、伝導帯まで達したために、ドナーレベルはプラス電荷8個によって、プラス電位になっています。フェルミデュラック関数の伝導帯と交わっている部分は電子8個分を表しています。フェルミデュラック関数の中間点の部分がフェルミレベルになります。

 次に示すのはP型半導体のバンド図です。


 電子8個がアクセプタレベルに飛び出したために、充満帯にはホールが8個分残っています。フェルミデュラック関数が充満帯と交わっている部分がホール8個分を表現しています。

 次に示すのはフェルミデュラック関数です。


 電子は本来あるべきところ(自分の座席のようなところと考えてもいいかもしれません)から、ぴょんぴょん飛び上がろうとします。温度が低い時はあまり動こうとはしませんが、温度が高くなるとぴょんぴょんと飛び上がろうとします。この時の電子の分布は、量子力学によるとフェルミデュラックの分布関数に従うとされています。ただし、飛ぶ方向は上ではなく、エネルギーの方向です。フェルミデュラック分布関数の中間点のところがフェルミレベルです。従って、電位がちょうど中間、あるいは電圧=0のところが、フェルミレベルです。ただし、物質のどこかに電圧=0の部分があるということではありません。エネルギー的に見て電圧=0の部分という意味です。

 フェルミデュラック関数の斜線を引いた部分が電子の存在している割合を示しています。つまり、フェルミデュラック関数は電子、ホールの存在する可能性を示しています。しかし、実際には電子は伝導帯にしか、ホールは充満帯にしか存在しえないので、関数の曲線と伝導帯、充満帯と重なるところにだけ、電子、ホールが存在できます。このように考えてみてください。電子は、斜線の部分を限度として、伝導帯を目指して、ぴょんぴょん飛び上がっているが、伝導帯に達した電子だけが、自由電子となり、そこまで飛び上がれないものは戻ってきます。

 確率的に考えると、フェルミレベルまで電子が詰まっているものと考えてください。与えられる熱のエネルギーで、ぴょんぴょん飛び上がる電子の数が違ってきますが、電子がじっとしているとしたら(絶対温度0のとき電子は飛び上がりません)、どこまで電子が詰まっていると考えるのがフェルミレベルです。フェルミレベルはこの部分まで電子が詰まっていると考えると、説明がうまくいくというだけの話です。仮想のレベルだと思ってください。

 真正半導体の場合は、禁止帯の中間にフェルミレベルが引かれます。N型半導体は、自由電子の候補がたくさんありますので、ドナーレベルが上がり、その結果、フェルミレベルも伝導帯の近くに来ます。これに対して、P型半導体はフェルミレベルが充満帯の近くになります。

 先ほど、N型半導体とP型半導体をくっつけても電流が流れないということを説明しました。その時に、使った考え方が電位の障壁です。しかし、フェルミレベルを使った説明は、フェルミレベルが一致するから電流が流れないのだと説明します。先ほどPN接合面で封入電圧が生じているので電流が流れないのだと説明したのですが、今度は同じことを電位差がないから電流が流れないと説明するわけです。ちょっと合点がいかないと考える方もいると思いますが、説明の方法だと思ってください。電位差があるところを電位差がないと説明するのですから、左右の電位も考え直さなくてはなりません。

 次の図はN型半導体と、P型半導体を接合させようとしているところです。


 N型半導体とP型半導体はフェルミレベルが異なっていることが分かると思います。2つの半導体を接触させたときにフェルミレベルが一致すれば電流は流れないと考えます。あるいは、その逆でN型半導体と、P型半導体をくっつけても電流が流れないのは、フェルミレベルが同じだからと考えるのです。

 電流が流れないのは、フェルミレベルが一致しているからだと説明するなら、一致させてみましょう。次のようにならざるを得ないと思います。つまり、P型半導体の方が、N型半導体よりも(マイナス)電位が高くなります。そのため、P型半導体の充満帯にあるホールは(マイナス)電位の低いN型半導体の方に流れていくことができません。ホールは常に浮き上がろうとします。N型半導体の自由電子は、下に流れていきたいのですが、P型半導体の電位は障害となります。

※バンド図はあくまで電子の流れを主体として描いていますので、電子は下に流れ落ちたい、ホールは上に浮き上がりたいという動きになります。通常の考え方とは逆ですので間違わないでください。



 ではP側にプラスの電圧をかけるとどうでしょうか。バンド図は電子を主体にして考えられた図ですので、P型のアノードにプラスの電圧をかけるとP型半導体のフェルミレベルは下がり次のようになります。P側に1Vの電圧をかけたのが次の図です。


 N型半導体の自由電子がP型半導体の方にどんどん流れ、P型半導体のホールはN型半導体の方へどんどん流れていくことが分かります。P型の方にプラスの電圧をかける方向を順方向といいます。







 P型半導体にマイナスの電圧をかける方向を逆方向といいます(逆方向バイアス、逆方向電圧)。P型半導体にマイナスの電圧をかけると、P型のバンドがその分上に移動します。


 上の図はP型半導体のアノードにマイナス2Vの電圧をかけた場合の例です。N型半導体の自由電子も、P型半導体のホールも全く動けない状態になります。

 交流電流がP型半導体のアノード端子から流れ込んだ場合、0V以下の部分はカットされ、0V以上の電流だけがN型半導体のカソードから流れ出てくることになります。これがPN接合の最も基本的な性質の整流作用です。

 PN接続ダイオードの電圧と電流の関係をグラフに書くと次のようになります。P型にマイナス電圧をかけた場合でもわずかな電流が流れています。これを飽和電流といいます。


 もし熱的な作用でP型半導体にわずかでも電子が、N型の中にわずかでもホールができると、それらは容易に流れます。ただし、接合面から離れすぎると、接合面まで行くことができません。接合面から特定の距離(拡散距離といいます)以内の電子、あるいはホールだけが、接合面を越えて反対側に流れます。これが飽和電流です。


 特性曲線の左下の降伏電流とはなんでしょうか。逆方向に電圧をかけていくと急に電流が流れ出す点があります。これを降伏電圧と言います。この降伏電圧は10Vから場合によっては1,000V近い場合もあります。


 電圧をどんどんかけていくと、電位の坂(といってもマイナス電位の坂ですが)の傾きが急になります。この傾きのことを電界強度といいます。例えば、100Vの電圧(逆電圧)を掛けた場合、空乏層の幅(通常非常に狭い)が1μ(ミクロン)だとすると、106V/cmという大きな値になります。この位になると空気中でも放電を起こしますが、半導体の中でも電子なだれという現象を起こします。

 P型半導体の方からものすごい速度で落ちてきた電子が、原子に衝突すると、勢い余って電子をたたき出し、後にホールを残します。たたき出された電子は早いのでまた別の原子と衝突して、電子をたたき出し、後にホールを残します。このようにたたき出された電子がどんどん増えて、しかもこの電子が次々に原子と当たり、電子をたたき出し、後にホールを残します。このようにN型の方では電子がどんどん増え、ホールはP型の方に移動します。これを電子なだれ降伏(avalanche breakdown)と呼びます。この時の電圧が降伏電圧(ツェナ電圧)です。通常は、この降伏電圧を越えないように使います。ただし、この降伏電圧で使うツェナーダイオードもあります。

 次にダイオードの概略図を示します。


 このダイオードは次のような回路記号であらわされます。





2.1 ダイオードブリッジ

 ダイオードは一方向にしか電流を流しませんので、交流を直流に変換することができます。このダイオードの性質を利用すると、交流を直流に直す整流器を作ることができます。


上のような交流電流をダイオードのアノード側から流すと、次のような電流を取り出すことができます。


しかし、これでは半サイクルの電流しか取り出すことができず(半波整流回路)、効率が悪いので、実際はダイオードをいくつか組み合わせて両方の電流を取り出します。次は、ダイオードを4つ組み合わせて作ったダイオードブリッジで取り出した電流です(全波整流回路)。


ダイオードブリッジの回路は次のようになります。




ダイオードブリッジにA、Bに交互に電流が流れ込みますので、次のような電流を取り出すことができます。






 Bから流れ込んだ電流もAと同じ極性になりますので、半波整流で捨てていた下半分の時間も利用することができます。




 ダイオードだけの整流では半サイクル分を折り返したような波打った波形(リプル波形)しか取り出すことができず、精密な用途には使えません。そこで、これをもっと整った波形にするために使われるのがコンデンサとコイルです。コンデンサを使った回路(平滑回路、smoothing circuit)の例を次に示します。





 t1とt2の間に充電し、t2とt3の間は電流が弱くなりますので、(t1とt2の間に)コンデンサにため込まれた電荷が放出されます(放電)。その結果、負荷で取り出される波形は次のようなより滑らかなものになります(赤の波形)。



 コンデンサを何段も使うともっと滑らかな波形になりますが、それでもまだ十分でないときは、更にコイルを使った回路に通してから取り出します。




2.2 いろいろのダイオード

2.2.1 フォトダイオード


 フォトダイオードは光起電力効果と呼ばれる効果を使います。PN接続のダイオードを使って原理の説明をします(その他のダイオードを使う場合も大体同じ)。

 ダイオードに十分なエネルギーの光が入射すると、半導体のいたるところで電子が励起され(電子が原子核の束縛を脱出 ※高いエネルギー準位に移動)、自由電子(伝導帯に移った電子)と自由正孔(ホール)ができます。

 空乏層で出来た電子は、N層の電界(N層の空乏層のプラスの電荷)にひかれてN層に、ホールはP層の電界(P層の空乏層のマイナス電荷)にひかれて、P層にそれぞれ流れます。同じように、N層で生成された電子はN層に残り、ホールはP層に流れ、P層で生成された電子はN層に流れ、ホールはP層に残ります。結果として、電子はN層に、ホールはP層に集まるように働きます。この時、外部に負荷が接続されていれば、P層からホールが、N層からは電子が流れることになります。



2.2.2 発光ダイオード

 発光ダイオードは電流を流すと発行する電子素子で、LED(Light Emitting Diode)とも呼ばれます。順方向に電圧を加えると、ホールと電子が接合部に引き付けられ、ここでホールと電子が結合します。ホールと結合した電子は低いエネルギー準位(充満帯)に移りますので、余ったエネルギーを光として外部に放出します。



 発光の原因は高いエネルギー準位にいた電子が、エネルギー準位の低い充満帯(価電子帯とも呼ばれる)まで落ち込んだことによります。半導体の材料によって、伝導帯のエネルギー準位が異なります(禁止帯の幅が異なる)。エネルギー準位の高いところから落ち込んでくると、青い光を、エネルギー準位が低いところから落ちてくると赤い光を、その中間の場合は緑の光を放出します。3つの光をうまく組み合させると白色の光を発行します。


 熱を放出しないので非常に高い発光効率を示し、未来の光源として期待されています。また、DVDは波長の短い青色ダイオードの開発によって、記録密度を格段に向上させることができました。



2.2.3 ツェナダイオード

 逆方向電圧を大きくすると、降伏電圧(ツェナ電圧とも言います)に達して急激に電流が流れ出すことは既に説明した通りです。ツェナ電圧に達すると電流が変わっても電圧はほとんど変わりませんので、絶えず一定の電圧を定電圧電源などに利用されます。



2.2.4 トンネルダイオード

 PN接合ダイオードに逆方向の電圧(逆方向バイアス)をかけても空乏層があるために電流は流れません。逆方向のバイアスをかけても電流が通り抜けられないはずの空乏層を電気が通り抜けられるようにしたのがトンネルダイオードです。発明者の名前を冠してエサキダイオードとも呼ばれます。トンネルダイオードは不純物の濃度を上げて空乏層を非常に薄く作っています。空乏層が非常に薄いと、量子力学の効果により、電子やホールが通り抜けてしまいます。この効果をトンネル効果と言います。トンネル効果が表れると、順方向に電圧を加えた時だけでなく、逆方向に加えた時でも、電流が流れます。
 また、このトンネル効果は、順方向に電圧を上げていくと、効果が減少し、逆に電流が減少するという「負性抵抗」という効果を現します。



2.2.5 可変容量ダイオード

 ダイオードの空乏層はコンデンサーを形成しています。PN接合の逆方向に電圧をかけると、電圧の大きさに従って、空乏層がひろがったり、縮まったりしてコンデンサーの容量を変えることができます。



3 トランジスタ

 半導体に3つ以上の端子を付けて、増幅などの機能を持たせたのが、トランジスタです。トランジスタにはいろいろのタイプがありますが、大きく分けると「バイポーラトランジスタ」と「電界効果トランジスタ」(FET)があります。

 バイポーラトランジスタは、P型とN型の接合の違いからPNP型と、NPN型に、これに対して、電界効果トランジスタは「接合型FET」と「CMOS型FET」に分けることができます。

3.1 バイポーラトランジスタ




 3つの半導体にはそれぞれ端子が付けられています。エミッタ(emitter)は放出する端子、コレクタ(collector)は集める端子、ベース(base)はトランジスタ制御の基準となる端子という意味になります。PNPでは、エミッタはホールを放出し、コレクタはホールを集めます。これに対して、NPNではエミッタは電子を放出し、コレクタは電子を集めます。

 PNPでもNPNでも理屈は同じですので、ここではPNPに的を絞って説明します。

 初めにエミッタとベースを接続してみます。下の図は順方向ですので、エミッタ内のホールはどんどんベース内に流れ込みます。


 上の図ではエミッタ内のホールとベース内の電子は同数程度存在するように書いてありますが、エミッタにはたくさんの不純物が入っていて、ベースには不純物があまり入っていません。つまり、エミッタには大量のホールが存在するが、ベースには自由電子はそれほど存在していないということです。このことは後の説明で非常に重要なポイントとなりますので、覚えておいてください。数にすると100対1程度です。イメージは大体次のような感じです。



 今度は、ベース・コレクタ接続について考えてみましょう。こちらはP型半導体であるコレクタにマイナス電圧がかかっていますので、逆電圧となります。従って、PN接合部のバリアが高すぎて電子もホールを身動きできません。


 実際にはベースのN型半導体は非常に薄くなっています。どの位の薄さでしょうか?先ほどエミッタのホールは大量にあるのに、ベースの電子はそれほどではないという話をしました。エミッタとベース間に順電圧をかけるホールがベースに流れ込みます。しかし、ベースには自由電子がありますので、ホールと自由電子が一緒になって消滅してしまいます。ホールがベース内に流入してどれ位生きていられるでしょうか。この時間を寿命時間といいますが、良質の結晶の場合は1ms位生きていられますが、悪いと1μs位になってしまいます。ここでは例として100μs生きられるとしましょう。その間にホールがどれくらい進むことができるか(これを拡散距離といいます)、計算すると0.7mm程度になります。ということはこれよりもベースの長さが短ければ、エミッタからベースに流れ込んだホールは自由電子につかまらずに、コレクタにまで到達することができます。コレクタにはホールが一杯ありますので、もう自由電子に捕まってしまう心配はありません。このため、トランジスタのベースは、50μ以下になるように作られています。高周波トランジスタの場合は、1~3μ位の薄さになっています。


 ベースの厚さを十分に薄くして、しかもエミッタに不純物をたくさん混ぜてホールを極端に多くするという条件を満たすと、エミッタ・ベース間に順電圧をかけることで、エミッタからコレクタにホールを流れ込ませることが可能となります。この時、コレクタにマイナス電圧がかかっていれば、コレクタに大量に流れ込んだホールは導線を伝ってどんどんと流れ出します。

 

 エミッタには大量のホールが存在し、ベースにはそれに比較すると余り自由電子はありません。エミッタ・ベース間に順方向の電圧をかけると、エミッタのホールはPN接合面を越えてベースに殺到し、ベースの自由電子はPN接合面を越えてエミッタ側に流れ込みます。ホールと電子が合体して、消えてしまう場合もありますが、ベースの幅が一定以下(0.7mm以下)という条件を満たしていると、多くのホールがコレクタまで無事に辿り着くことができます。先ほど、ベースの電子が僅かに、エミッタに流れ込むという話をしました。この電子はベースのマイナス電極から供給されています。そうすると、電流の流れは、ベースからエミッタの方向に流れる電子の流れと、エミッタ、ベース、コレクタと流れるホールの流れの2つの流れができます。これを図解すると次のようになります。


 矢印の方向が逆用ですが青い色はホールの流れを、茶色の流れは電子の流れを示しています。これをホールの流れ(電流の流れ)に沿って表現すると、次のようになります。


 ベースの自由電子はわずかで、エミッタのホールは大量です。その比は1対1000位にもなります。大量のホールがベースに流れ込むと、ほとんどの自由電子はホールと一体化して消えてしまいます(ただし、マイナス電極から少量ずつ供給されています)ので、自由電子が極端に少ない状態になります。従って、ベース・コレクタ間のPN接続面には封入電圧による壁がほとんどなくなってしまっています。そのため、大量のホールがエミッタからコレクタに流入することになります。つまり、エミッタ・コレクタ間に大量の電流が発生します。

 電子の流れを主体とすると次のようになります。


 ベースとコレクタ間に逆方向の電圧をかけると本来なら電流は流れません。しかし、わずかなエミッタ・ベース間の電流の影響で、エミッタ・コレクタ間に大量の電流が発生します。このエミッタ・ベース間の電流の流れを調節すると、エミッタ・コレクタ間の電流の流れを自由に調整することができます。

 エミッタ・ベース間の電流を止めてしまうと、エミッタ・コレクタ間の電流は止まります。これは、ベース・コレクタ間に逆電圧かかってしまうためです。エミッタ・ベース間の電流を少しずつ増やすと、エミッタ・コレクタ間の電流も増えていきます。エミッタ・ベース間に流れる電流はわずかですので、この僅かな電流で、大量のエミッタ・コレクタ間の電流の大きさを制御できるということになります。小さな電流の変化で、大きな電流の変化になりますので、見かけ上は電流が増幅されたように見えます。これをトランジスタの「増幅作用」といいます。

 増幅回路は次のようになります。


 トランジスタの回路記号は次の通りです。


 回路記号を使って先ほどの増幅回路を描くと次のようになります。


 ここまでPNP接続のトランジスタについて説明しましたが、NPN接続についても理屈は全く同じで、電流は逆向きになります。

 今まで説明したトランジスタは電子とホールの両方の作用でうまく動作していました。例えば、PNPトランジスタは自由電子の入っているベースの中に、ホールを注入することで、増幅ができました。このようなトランジスタはバイポーラ(双極性型)トランジスタといいます。

 バイポーラトランジスタと抵抗器で構成されるデジタル回路がTTLです。
※TTL=Transistor-transistor-logic

 これに対して全く違った動作原理で動くユニポーラ(単極性型)トランジスタがあります。これをFETと呼びます。


3.2 FET

 バイポーラ型トランジスタはベース電流を調整することで、コレクタ電流を制御するものでしたが、FET(電界効果トランジスタ、Field Effect Transistor)は電界(=電圧)によってキャリア(電子、ホール)の流れる経路を変化させて、電流の量を制御する素子です。

3.2.1 JFETとMOSFET

 FETの動作原理について簡単に説明します。次の示すのはN型のシリコン棒にP型領域を作り込んだものです。

 
 上の図はソースとゲート間に電圧をかけていない場合です。この場合は、ドレインにプラスの電圧をかけると、PN接合に逆電圧を加えたことになりますので、接合面に空乏層ができます。ただし、この場合はゲートには(逆)電圧を変えていませんので(VG=0)、空乏層はそれほど大きくなりません。

 次にゲートにマイナス電圧をかけるとどうでしょうか。PN接合に更に大きな逆電圧を加えたことになりますので、PN接合部に空洞層が更に大きくなります。逆電圧を更に大きくすると空乏層がさらに大きくなります。つまり、FETはゲートにかけるマイナス電圧を調整することで、ドレインとソース間の電流を増減させることができます。


 FETには接合型FET(JFET)とMOS型FETがあります。

 接合型の電界効果トランジスタ(JFET)は次の通りです。


 VDS(ドレイン・ソース間の電圧)を大きくするとゲートの周りに空乏層ができます。VDSを更に大きくすると、両ゲートの周りの空乏層同士が接してチャネルを閉じてしまいます。この状態をピンチオフ(pinch-off)といい、この時の電圧をピンチオフ電圧(VP)と言います。ゲートにマイナス電圧(逆電圧)を加えると、VDSが低い状態でもピンチオフ状態に達します。

※ゲートに逆電圧がかかっている時には、ゲートとソース間には電流が流れていないことに注意してください。

 MOSFETのMOSとはMetal(金属)、Oxide(酸化物)、Semiconductor(半導体)の意味です。MOS型のFETにはPチャネルのタイプと、Nチャネルのタイプがあります。

 Pチャネル型のMOSFETの概略図は次の通りです。

PチャネルのMOS FET

 次に示すのはPチャネルMOSFETの回路記号です。


 次にNチャネル型のMOSFETの概略図を示します。

NチャネルMOS FET


 次に示すのはNチャネルMOSFETの回路記号です。



 どちらも理屈は同じですので、NチャネルのMOS FETについて説明します。上の図で示したように金属酸化膜の絶縁膜の上に金属の電極を付けた部分をゲートと呼びます。それから、N型半導体の電極をソースとドレインと呼びます。

ゲートにプラス電圧を加える

 絶縁物を挟んでゲートにプラス電圧を加えると、ホールはゲートから遠ざけられます。

反転層の形成

 更に電圧を加えていくと、わずかにある電子がゲートに引き寄せられ、ゲート付近がN型半導体と同じ状態になります(電界効果)。これを反転層と呼びます。反転層ができると、ソースとドレインが反転層によって結び付けられ、そこに電流が流れます。


3.2.2 CMOS

 CMOS(通称はシーモス、Complementary MOS;相補型MOS)は、P型のMOSFET(PMOS)と、N型のMOSFET(NMOS)を相補的に利用する論理回路です。

 次に示すのはCMOSの最も基本的な論理回路であるNOT回路です。


 Vddの電位はVssに比較して3~15V程度高くなっています。A(入力)がVssと同じ電位の場合、上のPチャネルMOSFETのスイッチがオンになり、Q(出力)の電位はVddと同じになります。これに対して、Aの電位がVddと同じになると、下のNチャネルMOSFETのスイッチがオンになり、Qの電位はVssと同じになります。Aと反対の電位がQに現れますので、NAT回路となります。

 TTLやNチャネルMOSFETやPチャネルMOSFETのように片方だけ利用する方式は、常に回路に電流を流し続けなくてはならないのに対して、CMOSでは論理を反転させる際にMOSFETのゲートを飽和させるために必要なだけですので、消費電力の少ない回路を作ることができます。

 CMOSでは、ゲートを飽和させないとスイッチをオンオフできませんので、TTLに比較すると、圧倒的に速度が遅いという欠点があります。








参考文献

●伝田精一 『わかる半導体セミナー』 CQ出版
●福田京平 『電気が一番わかる』 技術評論社

更新記録

2018/11/04         「2.1」(ダイオードブリッジ)、「2.2」(いろいろのダイオード)追加
2017/1/16          「3.2.2 CMOS」追加
2016/12/18         作成