通信媒体とデータ伝送

 通信は、音や画像、映像、情報などを電気信号や、光信号、電波信号に変換して、相手先に送信し、相手先で元の音や画像等に戻す仕組みです。媒体とは、「仲立ちをするもの」です。情報伝達の仲立ちをする物は新聞やラジオ、テレビなどがあげられます。「メディア」などと呼ばれます。メモリや磁気デスクなどのデータを記憶するものなどは「記憶媒体」と呼ばれます。

 通信は送信者が特定の受信者に向けて情報を送信し、受信者がそれを受けとります。また、誰が送信者で、誰が受信者であるか決まってはいません。送信者と受信者の立場が時に逆転することもあります。通信の基本は、双方向性です。これに対して、ラジオやテレビなどは放送です。放送は元々の漢字の意味する通り「送りっぱなし」という意味です。放送局から、不特定多数の聴取者や、視聴者に向けて、一方的に、つまり単方向に送る(broadcast)だけです。

 これで大体通信媒体とは何かが見えてきたのではないでしょうか?放送じゃなくって、通信の媒体です。通信には、有線通信、無線通信、携帯電話、wifi、PHS、衛星通信、固定電話などがありますので、このような通信で使われる媒体が通信媒体ということになります。大きく分けると、銅線のケーブルや、光ファイバー、電波になります。皆さんが思い浮かべるのはLANのケーブルとか、wifiの電波ではないでしょうか。

 以前は銅線ケーブルと、電波が主たる媒体でしたが、現在の通信の主要部分は殆ど光ファイバーに置き換えられています。



1 有線媒体

1.1 銅線ケーブル

1.1.1 同軸ケーブル

 代表的な銅線のケーブルに同軸ケーブル(coaxial cable)があります。同軸ケーブルは断面を見ると同心円を何層にも重ねたような構造になっているため、このように呼ばれています。

 一番内側に銅の芯線(copper core)があり、それをポリエチレンの絶縁体(insulating material)で包み、それを更に細い銅線を編んだ網状の編組線(網状の外部導体:braided outer conductor)と呼ばれるシールド層で包み、最後に外側をビニール等の保護被膜(protective plastic covering)で覆っています。編組線は銅線で編んでありますので、シールドの役割と共に銅線の役割も果たしていますので、芯線と編組線で、2本の銅線の役割を果たしていることになります。

 芯線を電気信号が流れるとき、外側から電磁波が働くと、芯線を流れる電気信号にノイズが発生したり、信号が弱まってしまう(減衰する)ことがあるのですが、編組線があれば外部電磁波の影響を遮断して、ノイズや減衰を極力抑えることができます。また、芯線を流れる電気信号が電磁波を発生させ、それが外部に漏れることで外部の電子機器にノイズを発生させることがあるのですが、編組線はこれも防いでくれます。



同軸ケーブル




同軸ケーブルのシールドの仕組み



 同軸ケーブルは遮断性(シールド効果)に優れており、以前は電話システムの長距離回線で使用されていましたが、現在長距離回線のほとんどは光ファイバーに置き換えられています。残っているのはケーブルテレビなどの中距離のネットワーク(MAN=Metropolitan Area Network)です。MAN以外では、テレビ受像機や無線機とアンテナをつなぐ給電用ケーブル、音声信号や映像信号の伝送用などに使われています。



1.1.2 撚り対線

 同軸ケーブルはノイズに強いという長所があるのですが、LANで使うには柔軟性に欠けます。LANで使われるケーブルはツイストペアケーブル(Twisted Pair Cable)です。撚り対線(よりついせん)とも呼ばれます。

 同軸ケーブルの場合は電流の流れによって発生する磁界の影響が出ないように、十分にシールドがされています。しかし、このシールドの仕組みはケーブルの値段を著しく高めてしまいます。もっと廉価なケーブルを作ろうとするなら、このシールドの仕組みを採用することはできません。しかし、ここで問題が発生します。一本の銅線に流れる電流によって、磁界が発生すると(右ねじの法則)、この磁界の影響を打ち消そうとする作用が働きます。もし、近くに他の銅線があると、そこに及んだ磁界の影響を打ち消す方向に誘導電流が流れることになります。


誘導電流によるノイズ

 隣り合う銅線といいましたが、通信では銅線は複数本必要となります。少なくとも送信用の線と、受信用の線が必要となります。では、線は2本でいいのでしょうか。通信線は電気回路と一緒ですので、回路が閉じていないと電気が流れません(閉回路)。データが送られる線と、グランド用(電流の戻り)の線があって、それがつながっていないと、閉回路となりません。送信用のケーブルは送信用(+)、送信用のケーブルのグランドは送信用(-)などと表記されます。受信用の回路も同様に、受信用(+)と受信用(-)が必要となります。これだけでも最低4本入ります。

 つまり、近くに銅線があれば、そこに誘導電流が流れるといいましたが、すぐ隣には必ず他の線がありますので、誘導電流は必ず流れます。これは意図したデータ用の電流ではありませんので、ノイズだということになります。


閉回路による磁界の発生

 磁界の変化によって近くの銅線に電圧が発生する現象を電磁誘導といいます。そして、その銅線が閉回路になっている場合は、そこに電流が流れます。これが誘導電流です。

 上の図を見てください。2本のケーブルが仮に送信用(+)と、送信用(-)だとすると、送信側から(図では左から右に)データが送られ(電流が流れて)、この電流は、受信側から送信側に戻ってきます。これは回路を一周する流れですので、図ではグランド線を右から左に流れます。従って、これはデータ線の電流によって発生した、誘導電流の流れと逆の方向になります。また、グランド線で受信側から戻ってくる方向の電流によって発生する誘導電流は、データの流れと逆方向に流れて、データの流れを妨げます。このようにして、本来の電流の流れは削減されることになります。

 閉回路に電流が流れると、磁界が発生し、これが外に拡散し悪影響を及ぼすこともあります。

 これらの問題を解決するために取り入れられた方法が、「線を撚(よ)る」という方法です。送信用(+)と送信用の戻り(-)のように対になった線を撚り合わせたものを「撚り対線」といいます。対線を撚り合わせると次のようになります。


線を撚ることで磁界の影響を打ち消す


 送信用(+)の線と、送信用(-)の線を撚り合わせると、発生する磁界の向きが互い違いになっていることが分かります。これによって発生する磁界の影響を抑えることができます。

撚り対線の例



 LANで使う線は通常は8本で、送信用(+)線と送信用(-)線の2本、受信用(+)線と、受信用(-)線の2本がそれぞれ接続され閉回路となっています。他の2対(4本)についても、本来は1対づつ結線されていなくてはなりませんが、2対しかないものもあります。LANの通信規格によっては、2対しか使わないもの、4対使うものなどがありますが、4対使う通信規格の場合は、2対しか結線されていないケーブルは使うことができません。

 次に撚りの具合を例示します。

撚り線とカテゴリ

 上の撚り対線の例では、撚りの程度が違うことが分かると思います。ツイストペアケーブルにはカテゴリーという規格があります。現在はカテゴリ1からカテゴリ6Aまで、規格化され、カテゴリ7、カテゴリ7A規格が策定中です。カテゴリ数が上がるほど品質が良くなります。例えば、カテゴリが上がるほど撚りのピッチが細かくなったり、4対全部が結線されていたり、更に現在仕様が検討されているカテゴリ7、カテゴリ7Aなどは対毎にシールドされ、更に全体が同軸ケーブルと同様に、編組線でシールドされています。

 同じケーブル内の他の線を流れる電流による電磁誘導の影響については既に説明しました。これはケーブル内部からのノイズです。漏話などとも呼ばれます。このノイズは銅線を流れる信号の周波数が高くなればなるほど起きやすくなります。また、銅線には交流電流が流れます。交流が流れる場合の抵抗はインピーダンスなどと呼ばれますが、銅線のインピーダンスが変わるような箇所があると、そこで反射という現象が起き、これも内部ノイズの原因となります。内部ノイズ特に漏話を防ぐための工夫が対線を撚るという方法です。また、撚り対線同士の影響を防ぐために対線毎の撚りのピッチを変えるなどの工夫もがされているものもあります。

 外部からの影響(外部ノイズ)を避けるためにはシールドなどの工夫が必要となります。

 それからケーブルを流れる信号の周波数が高くなると、その分電気のエネルギーが減少しやすい(減衰といいます)という問題があります。減衰の程度をできるだけ抑える方法は、銅線をできるだけ太くすることです。

 撚り対線の1本1本の線は、実は撚り線で出来ている場合と、1本の銅線(これを単線といいます)があります。1本の線が太い銅線で構成されている場合(単線)は、撚り線に比較してノイズに強く、減衰の程度も抑えられます。従って、長距離で使用する場合は、単線がお薦めです。しかし、単線は曲げに弱いという欠点がありますので、頻繁に配線し直したりする場合には余りお薦めできません(頻繁に曲げたり伸ばしたりしていると、切れてしまいます)。これに対して、撚り線の場合は細い銅線を撚り合わせて1本の線ができていますので、単線に比較すると柔らかいケーブルとなります。撚り線は引き回しやすく、何度も曲げ伸ばしをしてもなかなか切れにくいという利点があります。しかし、ノイズに弱いという欠点がありますので、短い距離で折り曲げて敷設する場合などに使われます。



1.2 光ファイバー

 光を使って情報を伝達しようとするときに、光の伝送路として使われるのが光ファイバーです。光ファイバーによる通信では、光の反射の原理を使っていますので、少し理科の勉強をしたいと思います。

 光は同じ媒質の中を進むときは直進しますが、異なる媒質との境界面では一部は反射し、一部は屈折します。屈折の原因は異なる媒質の中を進むときに光の速度が変わるためです(詳しいことは専門書に譲ります)。

※光は電磁波の一種です。つまり、光は波なのですが、水面波や音波などとは異なり、媒質のない真空中でも伝わります。

 光が真空中から媒質に進入(入射)するときの屈折率は、媒質ごとに異なります。空気中は真空中とほとんど同じですが、水やガラスなどは真空に比較すると、屈折率が高くなります。

 屈折率の低い媒体から、高い媒体に入る場合には屈折角が入射角よりも小さくなります。屈折率の高い媒体から、低い媒体に入る場合は屈折角が入射角よりも大きくなります。


入射角と屈折角


 では、ガラスなどの屈折率の高い媒質から、空気中などの屈折率の低い媒質に入っていく場合について考えてみましょう。入射角よりも、屈折角の方が大きくなります。ここで、入射角を少し大きくすると、屈折角が90度になります。この時の入射角を臨界角といいます。入射角が臨界角を超えると、屈折角は90度を越えますので、光はガラス面から外に出ることができず、全部の光がガラスの中に反射してしまいます。この現象を全反射といいます。

全反射


 光ファイバーはこの全反射の仕組みを利用して信号を送信しています。光ファイバーは信号を送信するためのコアをクラッドと、被膜で包んでいます。全反射を利用するために、コアには高屈折率の物質が、クラッドには低い屈折率の物質が使われます。


光ファイバーの構造


 高屈折率のコアを、低屈折率のクラッドで包んでいますので、光源から臨界角以上の入射角で光の信号を発信すると、光の信号はコア内に閉じ込められた状態で進んでいきます。


全反射を利用した信号の送信



 銅線に電気を流すと電磁誘導などの影響で干渉が発生しますが、光ファイバーの場合は電気を流すわけではありませんので、そのようなことはありません。信号が漏れることもありませんので、盗聴の心配もありません。また、光ファイバーの場合は、信号がコアの内部を全反射しながら進むので、銅線と比較すると減衰の度合いははるかに小さく、遠くまで信号を送信することができます。ただし、問題がないわけではありません。コアにガラスを使っている場合は曲げに弱く、もしプラスチックの被覆の中でコアが折れてしまうと、その折れた箇所を見つけるのが難しいという欠点もあります。



1.2.1 光ファイバーの素材

 光ファイバーの素材としては、ガラスやプラスチックが使われます。種類としては大きく分けてコアにもクラッドにもガラスを使うタイプ(AGF=All Glass Fiber、GOF=Glass Optical Fiber)、コアはガラスでクラッドには高硬度のプラスチックを使うタイプ(H-PCF=Hard-Plastic Clad Fiber)、コアにもクラッドにもプラスチックを使うタイプ(APF=All Plastic Fiber、POF=Plastic Optical Fiber)があります。

 プラスチック製に比較すると、ガラス製は伝送損失が小さくなり長距離伝送に向いています。上の3つのタイプでは、コアもクラッドもガラスを使ったAGF(GOF)がもっとも伝送損失が小さく、次にH-PCFタイプ、もっとも損失が多いのがコアもクラッドもプラスチックを使ったAPF(POF)です。

 ガラス製の場合は石英ガラスが使われます。コアもクラッドも石英ガラスを使うAGF(GOF)の場合は、屈折率を変える必要があります。コアは屈折率を上げるためGe(ゲルマニウム)やP(リン)などを添加し、クラッドには屈折率を下げるために、B(ホウ素)やF(フッ素)などが添加されます。また、コアは伝送効率を上げるために透明度を高めなくてはなりません。特に、含水量は(OH基)は数ppmまで低減しなくてはなりません。

※コアの屈折率は大体1.463~1.467程度(ファイバーの種類によって異なります)で、クラッドの屈折率は1.45~1.46程度です。

 コアにガラス、クラッドにプラスチックを使うタイプでは、クラッドも堅くしなくてはなりません。コアが硬質のガラスで、クラッドが柔らかいプラスチックということになると、コアのガラスが折れやすくなります。そのため、クラッドには硬質のプラスチックが使われます。

 コアもクラッドもプラスチックという場合(APF、POF)は、コアには屈折率の高いアクリル、屈折率の低いクラッドにはフッ素樹脂などが使われます。

 コアに石英ガラスを使った場合と、コアにアクリルを使った場合では、施工の難度が違います。モードについては後で説明しますが、マルチモードの場合はコア径は50μm、62.5μmなどのタイプが使われ、シングルモードの場合は更に細く9μmと細くなります。この細い石英ガラスを接続する場合には、コアの中心軸を合わせて融着する必要があります。この際に軸がずれたり、角度がずれたり、接続面に隙間があったりすると、伝送損失率の増加につながります。接続面に隙間があり、空気が入ってしまったり、あるいは接続面に汚れが残ってしまったまま融着してしまうと、屈折率の異なる物質を挟んだまま融着したことになります。屈折率の異なる物質を挟んだまま融着すると、屈折率の異なるものとの境界上で反射(フレネル反射)が発生し損失の原因となります。光軸がずれたまま融着してしまうと、接続面での入射光の一部が外部に漏れてしまうことになります。融着面の角度ずれも、余分な反射の原因となりますので、損失を引き起こします。

 コアがプラスチックの場合は、比較的簡単です。POFのアクリルコアの径は980μm(マルチモードのGOFの約20倍程度)もありますので、比較的簡単に接続することができます。

 AGF(GOF)は伝送損失が少ないのですが、高価で、壊れやすく扱いが難しくなります。これに対して、APF(POF)は安価で、扱い易い半面、伝送損失が高くなります。H-PCFの場合はその中間ということになります。



1.2.2 光ファイバーのモード

 光ファイバーのモードとは、光が光ファイバーの中を伝搬する経路による伝わり方のことです。

 下の図のように光ファイバーのコアに入射した光は、コアとクラッドの境界で反射を繰り返しながら伝搬していきます。この時、入射角の小さいモードや、大きなモードが発生します。入射角の大きなモードは光ファイバーの中で反射を繰り返す回数が多くなるため次第に減衰し、一部はクラッドに出ていったり、ついには消滅してしまいます。


ステップインデックス型の伝搬モードと信号伝搬の関係


 光ファイバーはいつも直線的に敷設されているとは限りません。ケーブルが曲がった状態で敷設されている場合もあります。例え大きな入射角で入射された光でも、多くの反射が起こってしまうこともあります。反射の回数が多くなると、末端に到達する時間は余計にかかります。

 光ファイバーの中の光の速度は一定なので、コアの屈折率分布が一定であれば、モードによって末端に到達する時間が変わってしまいます。デジタル信号を光のON/OFF状態を使って伝送すると、複数モードによって光ファイバーの末端で信号が歪むという現象が起きてしまいます。これをモード分散といいます。モード分散が大きくなると、信号を元に戻すことができなくなります。

 光ファイバーにはマルチモード光ファイバーとか、シングルモード光ファイバー呼ばれるものがあります。

 マルチモード光ファイバー(Multi Mode optical fiber:MM)と呼ばれるものは、コア径が50μm程度で、複数のモードを伝搬する光ファイバーです。マルチモード光ファイバーの場合は、モード分散が大きいので数キロメートル程度の短距離用途に限定されてしまいます。

 マルチモード光ファイバーでモード分散を小さくする工夫もあります。それは、マルチモード光ファイバーのコアの屈折率を変化させることです。コアの屈折率が一定で、コアとクラッドの屈折率が階段(ステップ)状に変化するタイプはステップインデックス(SI、Step Index)型と呼ばれますが、コアの屈折率を変化させたものは、グレーデッドインデックス(GI、Graded Index)型と呼ばれます。ここで言うIndexは屈折率(refractive index)を指しています。


グレーデッドインデックスタイプの光ファイバー


 光ファイバーの中の光の伝搬速度は屈折率に反比例します。コア中心部の屈折率を高く、周辺部の屈折率を低くしているグレーデッドインデックス型の光ファイバーの中では、光は緩やかに曲がって伝搬していきます。高次モードは遠回りですが、屈折率の低い部分を通るので速度が速くなります。低次モードは最短距離を進みますが、屈折率の高い中心部を進みますので、その分遅くなってしまいます。その結果、どのモードも同じような速度で伝搬し、ゆがみが発生しません。

 コア径をどんどん小さくしていくと伝搬できるモードがだんだん減ってきて、ついには1つのモード(基本モード)だけしか伝搬できなくなります。このように1つのモードだけを通すようにした光ファイバーをシングルモード光ファイバー(Single Mode optical fiber:SM)といいます。
 シングルモード光ファイバーと呼ばれるものは、コア径を8μm程度にしています。1つのモードしか伝搬しませんので、モード分散はありません。シングルモード光ファイバーは、長距離の情報通信用として利用できます。

 現在使用されている光ファイバーはマルチモードのGI型光ファイバーとシングルモード(SM)型の光ファイバーです。それぞれに光ファイバーの特徴をまとめると次のようになります。

各種光ファイバーの特徴と用途
/ GI型光ファイバー SM型光ファイバー
コア径 50μm、62.5μm 8~10μm
クラッド径 125μm 125μm
主に使用される波長 0.85μm 1.31μm、1.55μm
伝送容量
用途 短距離 長距離




1.2.3 光ファイバーの材料特性-伝搬損失と分散

■伝搬損失
 光ファイバーは完全に透明ではないので、ファイバー内の光は伝搬するに従い減衰します。これを伝搬損失といいます。損失の大きさは[dB/km]という単位ではかります。1km伝搬した後、光の強度がA倍になったときの損失は10log10A[dB/km]です。例えば1km伝送後、光強度が1/10となれば、-10[dB/km]、1/1000となれば-30[dB/km]となります。

 損失の原因としては、①ファイバーにわずかに含まれる不純物 ②ファイバーの構造の不完全さによって光が散乱されること ③ファイバーの一部に微妙な曲がりがあり、そこで全反射できず、一部がクラッド内に逃げること などが考えられます。

 ②、③は構造上の問題ですので、これが完璧だとすると後は、①の材料の問題となります。

 ①の材料の問題としては不純物による吸収と散乱があります。純粋な石英ガラスでは紫外領域と2㎛よりも長波長の領域に吸収帯があるだけですが、不純物を少し加えただけで0.5㎛~2㎛の間でもかなりの吸収を生じるようになります。吸収損失の原因となる不純物としては、以前(光ファイバーの開発当初)は金属イオンが中心として考えられましたが、低損失化技術の進んだ現在は、水酸イオン(OH-)が主なものとみなされています。波長1.3㎛帯と1.5㎛帯では水酸イオンによる影響が一番大きいと言われています。

 以前の石英の純度では0.8㎛位の波長で損失が最低となるといわれていましたが、更に純度を高めた結果1.3㎛位で損失が最低になるとされました。この1.3㎛は次に述べる分散をゼロにする波長に一致していますので、よく利用されていますが、石英の純度を高める努力をした結果、現在は1.5㎛位が損失最低の波長といわれています。


損失の波長依存性


 散乱はレイリー散乱と呼ばれます。これは波長よりも小さいサイズの粒子によって引き起こされる光の散乱ですが、小さい粒子の存在によって微妙に屈折率の揺らぎを生じ、これにより光が散乱されるため、損失が発生します。光ファイバーは、製造時に2,000℃程度の高温から20℃まで冷却されるため僅かな屈折率の揺らぎを生じます。レイリー散乱による光損失は波長の4乗に反比例するといわれています。

 ②の構造上の不完全さとしては凸凹による散乱損失があげられます。様々な製造上の要因からコアとクラッドの境界面に微妙な凸凹があり、そこに光が当たったときに反射光が散乱することによって損失が発生します。

 ③の微妙な曲がりとしては、接続時の不具合などが考えられます。例えば、接続時のコアずれでは、光の通路が合っていないので、一部の光が次のコアに入射できずに損失となってしまいます。接続端面が軸に直角となっていない場合は、接続箇所で曲がってしまうために損失が発生します。


■分散
 信号のゆがみの原因となるのが分散です。分散の原因としては、既に説明したモード分散と波長分散があります。波長分散は光の波長の違いにより伝搬速度が異なることによる分散です。波長分散はその原因によって、材料分散と構造分散に分けられます。

 光ファイバー内を伝搬する光は厳密に言えば単一の波長ではなく、わずかながら異なった波長の光の集まりです。同じ材質の光ファイバーでも、光の波長によって屈折率や伝搬速度が僅かに異なります。従って、光がファイバー内を伝搬すると、元々あった広がりが、さらに拡大することになります。これが、材料分散です。

 構造分散は光ファイバーの構造に起因する分散です。光は厳密に言うとコアとクラッドの境界面ではなく、多少クラッドには染み出したところで全反射しています。この染み出し具合は波長が長いほど大きくなりますので、光路長が長くなります。従って、元々波長にわずかな広がりのある光は、光ファイバー内を伝搬する間にその波形がひろがってしまうことになります。

 分散によって隣り合う信号(光パルス)同士が受信端で重なってしまうことがあります。これをパルス端干渉といいます。これを避けるためには送信端のビットレートの上限を制限する必要が出てきます。

 波長分散の大きさは材料分散と構造分散の和で表すことができます。材料分散と構造分散は波長に対してそれぞれ反対の性質を持っていますので、波長分散の値を最小にすることができます。波長分散の値を最小にする領域内の波長を零分散波長といいます。


シングルモード光ファイバーの分散特性


 上の図を見ると、波長が1.3㎛当たりのところで波長分散が0になっていることが分かります。

 分散を重視すると1.3㎛位の波長が利用されますが、損失を重視すると1.5㎛位が好まれることになります。



2 無線媒体

 通信媒体の代表的なものとして電(磁)波があります。有線媒体の項で銅線に電流が流れるとそこに磁界が発生し、その磁界の効果を弱める方向に電界が発生し、もしそこに閉鎖回路があれば誘導電流が流れるということは説明しました。近くに閉鎖回路がない場合は電界が発生するだけです。しかし、電界が発生するということは電界が変化することを意味します。電界の変化は磁界を発生させ(磁界が変化する)、磁界の変化は、電界の変化を生み、電界の変化は、磁界の変化を生み出します。これが際限なく続きます。これが電波の正体です。

 電波を発生させる装置としてはアンテナが使われます。アンテナはコンデンサを改良したものですので、初めにコンデンサについて調べてみましょう。

 コンデンサは電気を溜める装置で蓄電器とも呼ばれます。二つの電極を向かい合わせて、そこに電気を溜めます。電気を溜める能力を静電容量といいますが、電極板の面積が大きな程、電極板距離が近いほど静電容量が大きくなります。2つの電極版の間に挿入する誘電体と呼ばれる絶縁物質の種類によっても静電容量は大きく異なりますが、ここではあまり関係ないので省略します。

 コンデンサに電池をつないで回路を作るとどうなるでしょうか。

コンデンサの回路


 電池のプラス極とつないだ電極板にプラスの電気(電荷)が溜まり、マイナス極につないだ電極板にマイナスの電荷が溜まります。ここで、2つの電極板の間の電界に変化が生じ、その結果その変化を打ち消すように磁界が変化します。


コンデンサーに電気が流れ込む

 しかし、電池から流れるのは直流の電流ですので、直ぐに容量いっぱいまで電気(電荷)が溜まってしまいます。この時、電極板の間の電位差と、電池のプラス極とマイナス極の間に電位差が同じになっています。こうなると電流は流れなくなってしまいますので、電極板の間の電界の変化は止まり、磁界の発生も止まります。


静電容量いっぱいの電気が溜まると電流は停止


 では、電池を交流電源に交換するとどうなるでしょうか。コンデンサの電極間には交互に向きが変化する電界が生まれるはずです。

 コンデンサに交流電流を流すとコンデンサの電極の間の電界は激しく変化し、周りに磁界が発生します。

電極間で激しく交互に変化する電界

 磁界の発生により、更に電界が発生し、この電界によってさらに、磁界が発生します。

コンデンサの電極を広げる


 電界の変化により磁界が発生し、磁界の変化により電界が発生するという動作が、際限なく繰り返されていくのですが、これが実は電波の正体です。


アンテナのように機能するコンデンサ


 電磁波といっても、波長の短い超低周波電磁波(3KHz以下)から、可視光線(380THz~790THz)、紫外線(790THz~10万THz)、X線(10万THz~1000万THz)、γ(ガンマ)線(1000万THz以上)まで様々です。このうち電波法では赤外線(3THz~380THz)よりも長い波長のもので、「3,000GHz(3THz)以下の周波数の電磁波」と規定しています。

 何故法律で規定する必要があるのでしょうか。電波はどこに飛んで行ってしまうか分かりません。この何処に飛んで行ってしまうか分からないものが、行く先々でノイズなどを発生させて、他人に迷惑をかけることがあります。このようなことがないようにある程度の規制は必要になります。また、周波数は公共の財産という面も持っています。公共財を不公平のないように使うためには国家がある程度の規制をする必要があります。

 電波は波長によって性質が違いますので、波長の違いによっていくつかの名前が与えられています。



名前 周波数 波長 主な用途
超長波(VLF)
Very Low Frequency
3kHz~30kHz 100km~10km
長波(LF)
Low Frequency
30kHz~300kHz 10km~1km 船舶・航空機ビーコン
中波(MF)
Medium Frequency
300kHz~3MHz 1km~100m AMラジオ、船舶通信、アマチュア無線
短波(HF)
High Frequency
3MHz~30MHz 100m~10m 短波放送、船舶・航空機通信、アマチュア無線
超短波(VHF)
Very High Frequency
30MHz~300MHz 10m~1m TV・FM放送、消防・警察無線、防災行政無線
極超短波(UHF)
Ultra High Frequency
300MH~3GHz 1m~10cm 特定小電力無線、無線LAN、携帯電話・PHS、TV放送、タクシー無線、アマチュア無線
マイクロ波(SHF)
Super High Frequency、
Microwave
3GHz~30GHz 10cm~1cm 衛星放送、レーダー
ミリ波(EHF)
Extremly High Frequency、
Milimeter Wave
30GHz~300GHz 1cm~1mm 衛星放送、電波望遠鏡、レーダー
サブミリ波
Sub-Milimeter Wave
300GHz~3THz 1mm~0.1mm レーダー、電波望遠鏡、半導体レーザー




3 データ伝送

 情報の世界では、データはデジタル化されています。文字、音声や画像など何でもデジタル化して扱われます。このあたりの事情は、こちらをご覧ください。デジタル化すると、全ての情報を"0"と"1"で表現できます。0と1だけしか利用しませんので、例えば電圧の高い低いだけで、全ての情報を表現することができます。



3.1 ベースバンド方式

 情報を0と1だけの2進数で表現し、このデータを電圧の高い低いに変換して、有線ケーブルや電波で送信するという方法が、まず考えられます。デジタルデータをそのまま送信する方法はベースバンド(baseband)方式と呼ばれます。この方式は、伝送路の物理的な影響を受けやすく遠距離通信には向いていません。ただ、非常に単純な方式で、LANのほとんどがこの方式を採用しています。

 ベースバンド方式には単流式と複流式、とその他の方式があります。単流式は1を+E(電圧あり)または-E(電圧なし)、0を0(電圧なし)と表すタイプです。これに対して、複流式は+Eと-Eの2値を使う方式です。
 
 更に、NRZ(Non Return to Zero)とRZ(Return to Zero)という分類があります。RZは0電位を基準にする方式、NRZは0電位を基準としないものを言います。単流式と複流式、RZとNRZを組み合わせると、単流NRZ、単流RZ、複流NRZ、複流RZの4つの方式ができます。

 これ以外にも、1のときに交互に正負のパルスを送出し、0の時は電位0のバイポーラ方式、あるいは0の時に極性を反転し、1のときは変化しない差分方式などがあります。

 電波では矩形の波形を作りにくいという面がありますので、向いていません。電波で矩形の波形を作ろうとするとあらゆる周波数成分を使う必要があり、この電波が空中に拡散すると他の通信に悪影響を与える心配があります。



3.2 変調方式

 近くのパソコン同士をつないだり、近くの電子機器をパソコンで制御する場合などはベースバンド方式で十分です。しかし、長距離で通信しようとするとうまくいきません。電圧の高低でだけで、データを直接送ると波形が壊れやすいという欠点もあります。通常、データを遠くまで送るにはブロードバンド方式を使います。ブロードバンドというとブロードな(broad)バンド(band=帯域)と勘違いしやすいのですが、この方式は搬送波と呼ばれる安定した波にデータを載せる方式です。

 搬送波はサイン(sin)カーブのような波です。物理的な性質として、「連続的な振動信号は他の信号よりも遠くまで伝搬する」ということがよく知られています。搬送波はデータを運ぶ役割を与えられていますので、キャリア(carrier、carrier wave)などと呼ばれることもあります。

 搬送波にデータを載せる技術を変調といいます。変調は、搬送波(キャリア)にデータ信号を載せるときに、搬送波を変化させる方法です。変調には、キャリアの振幅を変化させる振幅変調(AM、Amplitude Modulation)、周波数変調(FM、Frequency Modulation)、位相を変化させる位相変調(PM、Phase Modulation)などがあります。

 搬送波を変調させることでデータや、音声、画像、映像などの情報を載せることができ、後は有線でも、無線でも構いません、この搬送波を送れば、それと一緒にそれに載せた情報も一緒に送り届けることができます。送り先では、搬送波からデータを取り出します。これを復調といいます。



3.2.1 振幅偏移変調

 振幅変調は振幅偏移変調(ASK; Amplitude Shift Keying)とも言います。ASKの最も単純な方法はビット「1」の時には、電波を出し、ビット「0」の時は電波を出さない方法です。この方法はOOK(On Off Keying)と呼ばれます。OOKでは「0」が連続するとき、受信側では、連続した0の情報なのか、それとも電波が来ていないのか、装置が壊れたのか、判別できません。また、連続した1を受信しているときに、一瞬の妨害で電波が途切れても、それを「0」の情報としてとらえてしまうことになります。
 下の例は、OOKを若干修正して、「1」を振幅2/3で、「0」を振幅1/3で表現したものです。ASKは回路がとても単純になるという利点があるのですが、受信レベルの変動やノイズに弱いという欠点があります。振幅変調の場合は、変調波に雑音が載ってしまうと、後でそれを取り除くのが難しいためです。




3.2.2 周波数偏移変調

 周波数偏移変調(FSK; Frequency Shift Keying)はデータによって周波数を変える方法です。例えば、「0」の場合は周波数1MHzにして、「1」の場合には周波数2MHzにすれば、周波数を変えることでデータを送信することができます。

 周波数変調の利点としては、送受信機の構造がシンプルだということ、変調波に雑音が混じってしまっても後で簡単に取り除くことができることなどがあげられます。しかし、伝送路の速度を十分に生かすことができないという欠点を持っています。1に2400Hzを割り当て、0に1200Hzの波を割り当てたとすると、0を1つ送信するのに、1を2つ送信するのと同じだけの時間を必要とします。また、伝送速度が上がるに従って占有帯域幅が広がってしまうという特徴があります。以上の理由のため高速通信には向いていません。



■ GFSK
 GFSK(Gaussian Frequency shift Keying、ガウス周波数偏移変調)は、ガウス特性を持ったフィルタを通してFSK変調を行うものです。ガウスフィルタはローバスフィルタ(低域通過フィルタ)と呼ばれ、高域成分を落とすフィルタです。



3.2.3 位相偏移変調

 コンピュータネットワークでよく利用されるのが位相偏移変調(PSK; Phase Shifting Keying)です。位相偏移変調は「0」「1」のデータに応じて位相をずらします。180度位相をずらす場合は、「0」は位相を0度ずらし、「1」は180度ずらすというような感じになります。

※2種類の位相でいいので、0度と180度の組み合わせ以外に、90度と270度の組み合わせなどが考えられます。

 2つの位相を使う方法をBPSK(Binary PSK)と呼びます。


BPSK constellation (1bit/symbol)


 90度ずつ位相をずらす方法もあります。4つの位相を使いますので、QPSK(Quarter PSK)といいます。QPSKでは、「00」「01」「10」「11」という4つの状態に対応させることができます。こうすると1つの波形毎に2ビットずつ送信できることになり伝送効率が格段に向上します。変調パターンは通常シンボルと呼ばれます。この場合は、1シンボル当たり2ビットを表すことができます。

 PSK変調の様子はよく位相図で表されます。一位相を360度(2πラジアン)で表現すると、シンボル当たりの位相はBPSKは0とπの2点を、QPSKは0、(1/2)π、π、(2/3)πの4点を指していると考えることができます。このような位相図をコンステレーション(Constellation)と呼びます。


QPSK constellation (2bit/symbol



 上の例では、"00"と"11"が(1/2)πの位相違いで隣り合っています。これは、位相が(1/2)πずれてしまうエラーなどが発生した場合、2ビットいっぺんに反転してしまうことを意味しまう。これでは1ビット誤りを見つけるエラー制御システムでは対応できません。

 4位相では実際は(1/4)π、(3/4)π、(5/4)π、(7/4)πなどの位相がよく使われています。次の例では位相が(1/2)π進むごとに、1ビットずつ変化していることが分かります。また、πだけずれた反対側は、2ビットがそれぞれ入れ替わっていることが分かります。こうすると、先ほどの例に比較して、エラーに強くなります。

QPSKでよく利用される位相




 PSKで位相変化の幅を小さくしてゆけば8-PSK(3ビット/symbol)、16-PSK(4ビット/symbol)のように1シンボル当たりのビット数を増やしていくことが可能です。ただ位相をどこまで細かく使うことができるのかという問題があります。

8-PSKの例




 信号を多重化するということは多くの信号を混ぜてしまうということです。混ぜてしまっても、お互いに悪影響を与えず、しかも取り出すときに正確に元の信号を取り出すことができれば問題はありません。位相を180度ずらした波同士、位相を90度づつずらした波同士は互いに干渉しません。取り出すときも、簡単に分離することができます。もっと細かく位相をずらすとどうなるでしょうか。多くの情報を載せることができるのですが、お互いに干渉をし、しかも正確に分離できなくなってしまいます。

※無線の場合は直線距離を進んでくる波だけでなく、途中の障害物で何度も反射してくる波も交じってきます(マルチパス、マルチパスフェーディング)ので、位相のずれを正確に把握できない場合もあります。
※QPSKはBPSKと比較すれば雑音に若干弱くなりますが、2倍の情報量を送ることができますので、使い勝手が良い方法とみられています。
※位相パターンを0度、45度、90度、135度、180度、225度、270度、315度のように45度ずつずらせば、一度に3ビット(000、001、010、011、100、101、110、111)の状態を送信できますが、雑音の影響をかなり受けやすくなりますので、誤り訂正の信号を付加して使うことがあります。PSKだけだと8-PSKあたりが限度だとされています。

■ GPSK
 位相変調方式では受信側で、受信信号の位相が基準となる信号からどれ位ずれているか何らかの形で判断できなくてはなりません。一つの方法として位相識別のために基準となる信号を送信側から受信側に送るという方法があります。もう一つの方法は、現在の1つ前に伝送されてきた波の位相をその都度0°(基準)と解釈して、位相を判断する手法です。これをDPSK(Differential Phase Shift Keying)といいます。単にPSKという場合は、ほとんどの場合、DPSKが使われているようです。BPSKなら、DBPSKになります。QPSKを使う場合は、DQPSKとないます。

3.2.4 振幅位相変調

 振幅変調と位相変調を組み合わせた方式です。位相を0度と180で区別し、振幅を大小で区別すると、これで4通りの信号を表すことができます(2ビット)。

 次の例は、振幅を4段階で区別し、位相も4つを区別した場合の例です。この例では、同じ45度の位相で、振幅を4段階に調整しています。振幅はずれやすいことを考えると、エラーが発生しやすい方式だと言えます。素朴な疑問としては、図の緑色の部分のあたりが有効活用されていないのではないかと思えます。半径r2とr4の位相をそれぞれ45度、-45度ずらすなどの方法があると思いますが、こうなると実装が難しくなります。


エラーを起こしやすい振幅位相変調の例




3.2.5 QAM(直交振幅変調)

 実際の無線通信でよく利用されているのがQAM(Quadrature Amplitude Modulation、通称は「カム」)と呼ばれる方式です。日本語では、直交振幅変調です。振幅変調の一種であって、決して振幅位相変調ではありません。あくまで振幅変調なのですが、位相の要素も変調に絡めています。ただ、振幅位相変調ではありませんので、データを載せるときにその都度振幅と一緒に、位相も変調するということをやっているわけではありません。

 ではどうしているのかというと2つの波を使っています。2つの波にそれぞれ2ビットずつ担当させて、その2つの波を合成して、送信しています。2つの波が2ビットずつ担当しますので、合せて4ビットとなります。1つの波が下位2ビット、もう一つの波が上位2ビット担当します。

 2つの波は合成され、受信側で分解して、2つの波を取り出さなくてはなりません。2つの波に載せられた信号同士も互いに影響しあわないようにしなくてはなりません。このような要求を満たすことができるのは、搬送波を互いに90度位相のずれた波にすることです。90度位相のずれた波は直交(quadrature)しているといわれます。直交している波は互いに干渉しませんので、どちらかの信号が他方の信号を書き換えてしまうということがありません。直交している波は合成することができ、合成した波を分解して、元の波を取り出すことも簡単にできます。

 QAMで利用される2つの波はsin波とcos波です。実際にはcos波と、位相が90度遅れたsin波、つまり-sin波が利用されます。cos波に振幅変調(Amplitude Modulation)をかけて上位2ビットを担当させ、-sin波に下位2ビットを担当させて、この2つの波を合成します。これで、4ビットの値が作成できます。

 この変調をcos波の変調を横軸、-sin波の変調を縦軸として、星座の様に表示すると次のようになります。

16QAM信号空間ダイアグラム


 cos波、-sin波をそれぞれ4段階で変調すれば、2ビットずつの表現ができます。2つの波を合わせると4ビット表現ができ、これで16通りのビット列ができますので、16QAMとなります。cos波と-sin波をそれぞれ8段階で変調すれば、各波ごとに3ビット表現ができ、これを下位ビット、上位ビットとすれば、併せて6ビット表現が可能です。これが、64QAMということになります。cos波と-sin波をそれぞれ16段階で変調すると、各波ごとに4ビット表現が可能となり、これを上位、下位で合わせると、8ビット表現が可能で、こうなると256通りの情報を表現できます。これが256QAMということになります。

 ただ、振幅変調は非常にエラーを起こしやすいので、エラーを制御するために他の方法と組み合わせる必要があります。この点に関してはスペクトラム拡散(周波数ホッピング・スペクトラム拡散、直接シーケンス・スペクトラム拡散など)をご覧ください。



3.3 多重化方式

 1つの伝送路で複数の回線や信号を同時に伝送することを多重化といいます。1つ1つの回線は通常「チャネル」などと呼ばれます。従って、多重化とは、1つの物理的な伝送路に複数のチャネルを設けるための方法です。これにはいくつかの方法がありますが、代表的なものとして、周波数分割多重(FDM)、時分割多重(TDM)、符号分割多重(CDM)などがあります。



3.3.1 周波数分割多重

 周波数分割多重(Frequency Division Multiplex、FDM)とは、一つの伝送路の周波数帯域を分割し、そのそれぞれの帯域に異なった通信路を割り当てる方式です。この方法はアナログ信号の多重化に適しています。テレビやラジオなどは元々放送局毎に違う周波数帯で放送番組を作っていますので、それを多重化して送ることができます。周波数分割多重すると、信号は混じってしまいますが、周波数の異なる信号は多重化しても容易に取り出すことができます。

 もともと同じ周波数帯を使っているいくつかの伝送路を1つの伝送路にまとめる場合は、多重化する前に周波数変調をして、それぞれのチャネルの周波数に合わせてから多重化することになります。



3.3.2 時分割多重

 デジタルデータでも搬送波を使って送る場合には、この搬送波の周波数を変えることで多重化が可能です。しかし、デジタルデータの場合は時分割多重が適しているとされています。

 時分割多重(Time Division Multiple)では各チャネルの信号に時間差を設けて、チャネルごとに順番にデータが送られます。デジタル信号の場合はもともと飛び飛びにパルスを送っているだけですので、パルスとパルスの間は隙間だらけです。この隙間を有効活用するのがデジタルで時分割多重が有効とされる理由です。



3.3.3 符号分割多重

 符号分割多重は周波数も時間も共有します。送信側で同じ周波数の波を、時間も分けないで多重化してしまうと、ごちゃ混ぜになったチャネルから必要なチャンネルを取り出すことができないのではないか、という心配があります。

 符号分割多重(Code Division Multiple Access、CDMA)のポイントは符号です。符号分割多重では、チャンネル毎に異なる特有の符号を割り当てられ、送信側でチャンネル毎にその特定の符号が付加されます。この方式では、チャンネルは多重化されても、受信側で、符号を適用することで必要なチャンネルだけ取り出すことができます。



3.4 同期方式

 コンピュータで情報を送信する場合には、送信側と受信側でタイミングを合わせる必要があります。この仕組みを同期といいます。

 同期をとるための一番簡単な方法は、データの送信と並行して、タイミングを取るための信号(タイミング信号)を送ることです。このような方式は外部同期方式といいます。しかし、そのためには複数の配線が必要となります。この方法は長い距離の通信には向いていません。データの中に同期信号を含める方式なら、長距離でも使うことができます。このような方式を自己同期方式とか、内部同期方式といいます。内部同期方式には、ビット同期とブロック同期の方式があります。



3.4.1 ビット同期

3.4.1.1 調歩同期式
 調歩同期式は1文字(1バイト文字)を送るごとに文字の前後にスタートビットとストップビットを置く方式です。送る情報がない場合はストップビットを連続的に送信します。1バイト文字を送るといっても、7ビット文字か、8ビット文字か、あるいはパリティを送る場合もありますので、送信側も受信側もクロックを持ってそれに合わせて送受信する必要があります。

 調歩同期式では、1バイトごとにスタートビットとストップビットを付けますので、送信者は送信と送信の間を任意の長さで待つことが出来ます。これは文字と文字との間の間隔を自由に空けることが出来るという意味です。これは、キーボードとコンピュータの間の関係としては最適です。ソフトウェアとハードウェアが簡単であるということも利点です。欠点は、伝送効率が悪いということです。伝送効率のことをあまり考慮する必要のない通信ではよく利用されます。例えば、パソコンをルータやスイッチと直接接続して設定を行う場合などでは今でもよく利用されています。



3.4.2 ブロック同期

 ブロック同期と呼ばれる方式は、伝送情報のブロックを確実に識別するための方式です。



3.4.2.1 キャラクタ同期(文字同期)
 キャラクタ(文字)同期は文字を使ってブロックを識別する方式です。ベーシック手順と呼ばれる通信方式では、ASCIIコードのSYN(0x16)を同期用の文字として使います。確実に同期を取るために、SYNを複数個続けて送り、受信側ではSYNを受け取って以降を8ビット単位で区切って文字として認識します。メッセージの前後にSTX(0x02=テキストの始まり)、ETX(0x03=テキストの終わり)が付いているとより分かりやすくなります



3.4.2.2 フラグ同期
 フラグ同期は文字コードではないビット列で同期をとる方法です。HDLC(High Level Data Link)の場合は"0111111"というフラグが利用されます。

 伝送ビット列の中に5ビット以上の1の連続がある場合には、フラグとの誤認を防ぐために、1ビットの0がその後に挿入されることになっています。受信側は、5ビット連続した1の後に0が続くときは0を除去します。インターネットでは、データ伝送部分を規定していませんので、ネットワーク毎に様々なデータ伝送方式が採用されています。大学のキャンパスLANとか、企業内LANでは、イーサネットという方式が採用されていますが、イーサネットは伝送ビットを送信する前にプリアンブルという同期をとるための信号を送信します。プリアンブルは、サイズが8オクテット(64ビット)で、1と0が交互に続き、最後は11で終わっています。





3.5 伝送モード

 伝送モードにはデータの流れが一方向の単方向モードと、双方向にデータ伝送が可能な双方向モードがあります。LANなどのネットワークは基本的に双方向です。双方向には全二重と半二重があります。全二重は常時双方向の通信が可能な方式で、半二重は双方向のデータ送信は可能ですが、同時には一方向のみが可能な方式です。



3.6 光通信システム

 光ファイバーを使った通信もデジタル伝送ですが、搬送波の周波数や位相、振幅などを離散的に使う方式は使えません。光ファイバーは通過する光の強度に対して線形に応答しない上に、ケーブルの曲げなどにより特性が変わるので、アナログ伝送はほとんど不可能です。 同じ理由で、振幅の変化、位相の変化、周波数の変化などを伴う複雑なデジタル変調もできません。そこで、光通信システムではデジタル変調の中でも最も単純なオンオフキーイングと呼ばれる変調方式が採用されます。



3.6.1 オンオフキーイング(OOK)

 オンオフキーイング(OOK、on-off-keying)は搬送波の有無により信号を表す変調方式です。ある時刻における搬送波の存在は「1」を、搬送波の欠如は「0」を表します。振幅偏移変調の最も単純な形式とも言えます。オンとオフだけで1ビットを表しますのでモールス信号のようなものですが、光ファイバーの応答は電気回路よりも速いので、電気回路よりも数百倍、数千倍の速度で信号を送れば、複雑な変調をかけなくても効率の良い通信を実現できます。



3.6.2 半導体レーザー

 光は銅線中の電気信号に比較すると減衰しにくいのですが、長距離で伝送すると減衰します。そこで、最も減衰しにくい波長の光が利用されます。この点については、「1.2.3 光ファイバーの材料特性-伝搬損失と分散」で説明しましたが、現在は1.3㎛と1.5㎛の波長の赤外線が利用されています。

 光の信号に多くの波長が混じってしまうと、分散の原因となりますので、できるだけ1つの波長に限って送信しなくてはなりません。

 出きるだけ少ない波長の光を発生させる技術がレーザー技術で、発光素子として使われるのがレイザーダイオード(Laser Diode)です。半導体で出来ていて、一定の電圧を加えると1種類の波長の光のビームを発生します(半導体レーザーとも呼ばれます)。

 半導体レーザーにはFPレーザーとDFBレーザーと呼ばれるものがありますが、1波長のみ発信し、長距離・大容量の光ファイバー通信に適しているのが、DFBレーザです。

 光通信システムでは、電気信号を半導体レーザーで光信号に変換して、これを光ファイバーに入射し、受信光をフォトダイオードを使って再度電気信号に変換します。


光通信システム


3.6.2.1 DFBレーザー
 DFB(Distributed Feedback)は1波長しか出しません。このため、光の波長のずれ(分散)が発生しませんので、高速・遠距離の通信が可能となります。通信速度は、1秒間で10Gbですので、1秒間に100億回の光を点滅します(電話回線で1度に15万本通話させることができる速さ)。

 DFBレーザーはどうして1波長しか出て来ないのでしょうか?それは半導体の構造上の工夫にあります。半導体レーザーはP型半導体とN型半導体の組み合わせで出来ていますが、N型半導体を波型にして、この波型の波長のぴったり2倍の波長の光のみが強め合い、それ以外の波長の光は、N型半導体の波型に当たって反射した光によって徐々に打ち消し合うことになります。

 言葉では少し曖昧ですので図で示します。N型半導体が山切りカットされています(専門用語では回折格子と呼ばれます)。

N型半導体で山切りカット

 次に示すのは、山切りカットの幅が0.2㎛の場合です。0.2㎛のちょうど2倍の波長のレーザー光は山に当たっても反射光が元の光と重なり合って強め合います。次の図を見てください。山切りカットとレーザー光が接している点ではその接線が共通になっています。つまり、反射光が接線方向に進みますので、反射光が元のレーザー光と全く重なってしまうということになります。

山切りカット幅の2倍の波長のレーザー光

 次の図は0.4㎛以外の波長のレーザー光の場合です。反射光が元のレーザー光を妨害する方向に反射していることが分かります。このようにして、0.4㎛以外の波長の光は少しずつ反射光によって打ち消され、やがて消滅してしまいます。

山切りカット幅の2倍以外の波長のレーザー光

 ここで、04㎛の波長を例に挙げたのは1.3㎛帯の波長を使った光通信を念頭に置いているためです。半導体レーザー部品内と空気中では光の屈折率が違うため、波長が0.4㎛のレーザー光は空気中に出ると波長1.3㎛の光となります。



3.6.3 光ファイバーアンプ

 光ファイバーは低損失と何度も強調しましたが、それでも数百km~数千kmという距離になると弱くなった光を何らかの方法で増幅する必要があります。

 以前は受け取った光のパルスを一旦フォトダイオードで電気信号にして、"1"と"0"を読み取り、再びレーザーダイオードで光パルスを発信する方法が利用されていました。しかし、これでは光信号を電気信号に変え、再び電気信号を光信号に変えるのに余計な時間がかかってしまいます。

 そこで考えられたのが、光信号のままで増幅する光ファイバーアンプ(光増幅器)という装置です。光ファイバーアンプの原理の簡単な図を下に示します。


光アンプの原理


 光ファイバーアンプでは、エルビウム(Erbium:元素番号68)という元素を添加(ドープ、dope)したエルビウムドープ光ファイバー(EDF、Erbium Doped Fiber)を使います。エルビウムをドープした光ファイバは通常の光ファイバーと接続して使います。エルビウムに対して波長1.48㎛のレーザー光を照射すると、エルビウムのエネルギー状態のレベルが上がります(励起状態)、ここに1.55㎛のレーザー光を当てると、エルビウムが同じ波長の光を強烈に発光します。これだけでは分からないという人が多いと思いますので、もう少しかみ砕いて説明します。

 光ファイバーに対して励起光を照射しています。励起光はポンプ波などと呼ばれることもあります。光ファイバーを流れている光は波長が1.55㎛です。そして、ポンプ波(励起光)は波長が1.48㎛(あるいは0.98㎛)ですので、ポンプ波が光信号に対して雑音となることはありません。

 励起光はエルビウムを励起状態にするように促す光です。励起状態というのは量子力学の専門用語で難しいのですが、ここでは必要最小限の概略的な話をします。もっと知りたい方は量子力学の専門書をお読みください。

 原子核の周りを回る電子の軌道はいくつかありますが、通常の軌道を回っている状態を、基底状態といいます。各軌道にはエネルギーの基準があります。これをエネルギー準位といいます。外側の軌道ほどエネルギー準位が高いと思ってください。

 原子に外からエネルギーを注入し、エネルギーが高まり、それが外側の殻(軌道)のエネルギー準位を超えると、電子は外側の軌道を回り始めます。この状態を励起状態といいます。励起状態の原子は、興奮状態といってもいいかもしれません。余分なエネルギーを持っていますので、このエネルギーを何らかの反応に使える状態です。従って、励起状態では基底状態よりも反応しやすいと言えます。

 ただ、エネルギーが低い方が安定なので、光のエネルギーを放出して励起状態から基底状態に戻ろうとします。この時に発する光がエルビウムの場合は、波長1.55㎛の光となります。

 では物理的な理解はこの位にして、この量子力学の知識を使って、光ファイバーアンプの話を続けます。

 減衰して弱くなった波長1.55㎛のレーザー光に対して、波長の違う励起光を注入して、これを合波して(といっても波長が違うので混じり合いません)、エルビウムドープ光ファイバーに照射します。ここで、エルビウムドープ光ファイバー内のエルビウムが励起光によって励起状態になります。この励起状態になったエルビウムに、波長1.55㎛のレーザー光が当たると、エルビウムは強力な1.55㎛の光を発して、基底状態に戻ります。

※この場合、元々の光ファイバー内を流れていて、今は減衰してしまっている光が、励起状態になったエルビウムに照射されることになります。

 励起光によってエネルギーレベルの上がったエルビウムへ、別の波長1.55㎛の光を当ててやると、エルビウムから強力な光(波長は1.55㎛)が発生します。このように、励起状態で発光する光と同じ波長の光を当てることによって、当てた光と同じ波長をもつ光が強力に放出される現象を誘導放出といいます。エルビウムの場合、1.55㎛の波長の光によって、誘導放出が発生しますが、この波長の光は、石英ガラスにとっては損失が最も少ない光でもあります。従って、エルビウムを含ませた光ファイバーを使用すれば、光通信に適した波長の光をそのまま増幅することが可能です。構成によっては元の信号を10万倍程度にまで増幅することが可能です。







更新履歴
新規作成         2017/9/8












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