アクセス回線


 アクセス回線(access line)は、皆さんがインターネットをするときに、データを通信事業者の局舎まで運んでくれる回線(line)のことです。

 皆さんが自宅や勤め先のパソコンからインターネットをするときに、パソコンから発信された信号は、LANのルータから外部のネットワークに出ていきます。そして、最初に行き着く先は通信会社の局舎です。このLANと通信会社の最寄りの局舎までの回線を、アクセス回線とか、足回り回線、あるいはラストワンマイルといいます。ラストワンマイルのワンマイルは距離とは関係がありません。インターネットからユーザの自宅までの通信回線の部分の最後のピースがラストワンマイルです。これは、通信会社の側を主体にした言い方で、ユーザから見れば「ファーストワンマイル」ということになります。



 アクセス回線としては電話回線や、ADSL、光回線(FTTH)などが代表的ですが、ケーブルテレビ(CATV)の回線を利用する場合や、無線を利用する方法などもあります。


プロバイダ

 皆さんは自宅でインターネットをする際には回線契約とインターネット契約を結びます。回線契約は通信会社との間で行います。この回線契約を結ぶと、ユーザの音声やデータは通信会社の局舎まで届いて、通信会社のネットワークが使えます。しかし、通信会社のネットワークはインターネットではありませんので、このままではインタネットは使えません。

 インターネット回線はインターネットサービスプロバイダ(ISP、Internet Service Provider)と呼ばれるサービス会社のネットワークです。

 ISPのネットワークはインターネットのプロトコル(通信手順)であるIPを使って通信を実現するいわゆるIPネットワークです。IPネットワークはルータと呼ばれる通信機器によって構成されています。

 次に示すのはAというISPのネットワークの概略図です。

 ISPのこのIPネットワークは、どうやって実現しているのでしょうか。ISPのルータ網はISPが独自に実現している場合もないわけではありません。しかし、これには莫大な経費が掛かりますので、通常は通信会社の回線(専用線)を借りて実現しています。つまり、ルータ1とルータ2の間の接続は、通信会社(電話会社、普通はNTT東西)の専用線を借りて実現しています。

 ISPのルータ網は通信会社の専用線を借りて実現しているとすると、通信会社の局舎の中にルータを置かせてもらうのが最も効率的です。単にルータを置くだけの場合は、そうすることが多いと思います。各種のサーバ類も通信会社の社屋内に置かせてもらえれば、好都合です。最近は通信会社がデータセンターも兼ねていて、通信会社の社屋の中に各種のサーバ類を設置している場合も多いようです。

 通信会社の局舎間の回線が次のようになっているとします。


 それぞれの局舎の一部を間借りする形でISPのルーが設置されますので、ISPのルータ網は、次のような感じになります。ISPのルータとルータの間の回線は通信会社の専用線を借りますので、ISPのルータネットワークの形状は、通信会社の局舎間同士の接続の形と似ているのではないかと思います(ここは推測です)。

※ISPのルータネットワークの形状がどうなっているかは、まったくどうでもいいことだとは思いますが、読者の皆さんが想像しやすいのではないかと思い、余計な一言を付け加えました。


 これが、ISPのルータ網です。これは一社の例ですが、ISPのサービスを提供している地域が同じなら、ルータ網も同じような形状をしているはずです。もちろんサービス地域が異なれば、それに沿ってルータ網の形も違ったものになります。

 このままですと、プロバイダ同士の間の通信はできないということになりますので、異なるISP同士を結び付ける施設が必要となります。この施設をインターネットエクスチェンジ(IX、Internet Exchange PointあるいはIXP)といいます。

 上の通信会社のネットワークを見てください。全部の局舎が1対1で接続されているわけではありません。局舎の数を1000だとすると、1000の局舎を1対1で接続する(フルメッシュ構造)には、1000*(1000-1)/2の接続が必要となります。計算すると、約50万です。これは大変ですので、一般的には木構造の接続になっていて、中心部の主要な局舎間は部分的なメッシュ(パーシャルメッシュ)構造となっていると思います。

 では、ISP同士の相互接続はどうなっているのでしょうか。各局舎の中で、ISP同士を接続してもよさそうにも思えますが、どうでしょうか。IPSが100社あるとすると、ISPのネットワークが100個あることになります。この100このネットワークを各局舎の中で接続すると、この接続は100*(100-1)/2で、計算すると5000の接続になります。各局舎の中で5000の接続を実現して、全国に1000の局舎があると、この接続だけで、500万ということになりますので、もっと効率的に接続しようということになります。

※上にあげた数は大体のところです。NTTの局舎は各県で50~100位ありますので、少なく見積もっても数千あると思います。これは秘密ではなくて、Google等で検索すると、大体のところは見当がつくと思います。プロバイダはちょっと難しいです。インターネット白書(2000年版)によりますと、ISPとして、総務省に届け出ているものは4000社以上に上るようです。「一般社団法人インターネットプロバイダ協会」の会員の数は155社(2017/03/21日現在)あります。ISPとして登録しているだけのところもあるでしょうから、100で計算してみました。

 ISP同士の接続はIXだけでなく、通信会社の局舎の中で実現されている場合もあるようです。


 通信事業者との間で回線(アクセス回線)契約を締結し、プロバイダとの間でインターネット接続契約を結ぶと、自宅のパソコンから、プロバイダのネットワークまでつなげることができます。プロバイダのネットワークはIPネットワークですから、パソコンからIPパケットをプロバイダネットワーク(インターネット)まで、送り込めば、後はプロバイダネットワークのルータが、IPパケットのヘッダ情報を確認して、宛先ネットワーク、そして宛先ホストまで運んでくれます。



xDSL


 xDSL(Digital Subscriber Line、デジタル加入者線)とは、従来の電話線(撚り対線、twisted-pair line)を使って、高速なデジタル通信をする方法です。既に敷設されているメタルケーブルを使って、デジタルで高速通信ができるというメリットがあります。

 従来の撚り対線を使って、高速デジタル通信を行う方法にはADSL(Asymmetric DSL)、CDSL(Consumer DSL)、VDSL(Very high-bit-rate DSL)、長距離向きのReach DSL、上下同じ速度のHDSL(high-bit-rate DSL)、SDSL(Symmetric DSL)などがあり、xDSLと総称されます。

ADSL

 日本で一般的に利用されているxDSLは、ADSLです。従来は、電話回線を使った接続(ダイヤルアップ接続)では、0~4kHz程度の周波数しか使っていませんでした。それはどうしてでしょうか。

 アナログの音声電話の場合は、家からNTTの局舎(交換局)までは1本の電話回線でつながっていますが、交換局同士を結ぶ回線では複数の通信を1本の通信線でまとめて(多重化して)います。そのため、効率的に多重化しようとすると、1回線分の周波数の幅はできるだけ狭いほうがいいという事情があります。人間の声を聞き分けるために必要十分な周波数幅を確保できれば、それでいいと考えられました。その結果、決まったのは音声信号を0~4kHzまでの周波数帯域で送信するという方法です。

※人間の男性の話し声は500Hz程度、女性の話し声は1kHz程度、ソプラノ歌手の歌声は2kHz程度、セミの鳴き声は4kHz程度と言われています。人間の声の主成分は、大体0.2k~4kHz程度の周波数の範囲内にあると考えられていますので、0~4kHz位の帯域幅を送信できれば、音声電話には十分だと考えられました。

 しかし、1本の電話線の能力から考えると、もっと高い周波数帯も送信できるのに使っていなかったということになります。そこで、いままで使っていない高周波数部分を使おうというアイデアが生まれました。これがADSLです。



 ADSLモデムはイーサネット信号とADSL信号を変換する信号変換器です。スプリッタは音声信号とデータ信号を混合したり、分離したりする役割を持ちます。

 ADSLの回線のタイプには2つあり、1つはアナログ電話回線とADSLを併用するタイプです。上の図はこのタイプの概念図となっています。このタイプでは、ADSLを電話やFAXと同時に利用できます。ただし、ISDN回線を利用している場合は、アナログ回線への切り替え工事が必要です。

 もう一つのタイプは、現在利用中の電話回線とは別にADSL専用のアナログ回線を敷設します。このADSL用の専用線では通常の電話は利用できませんが、IP電話の利用は可能です。

 ADSLでは、上り通信用に26kHz~138kHz、下り通信用に138kHz~1104kHzという非常に広い周波数帯を使っています。ADSLは下りと上りで使う帯域幅が異なります。これが、非対称デジタル加入者線(ADSL)と呼ばれる理由です。一般家庭でのインターネットの利用では、データを公開するよりも、閲覧することが圧倒的に多いので、上り方向(閲覧者から見て、上り方向なのでアップリンク)よりも、下り方向(閲覧者から見て、ダウンロードする方向なので、ダウンリンク)に優先的に、帯域幅を割り当てました。

 音声電話と、データのアップリンク、ダウンリンクで違う帯域を使っていますので、電話と同時にインターネットができます。また、アップリンクとダウンリンクを同時に使うことができます。

 上り下りに上の帯域幅をとった場合、上りが最大で1.5Mbps、下りが最大で12Mbpsとなります

 もっと高速伝送を行おうとすれば、帯域を広げる必要があります。帯域を2.2MHzまで拡大すれば、速度は最大28Mbpsになります。


 帯域を3.75MHzにまで拡大すると、速度は最大52Mbpsになります。



 ただし、実際の速度はだいぶ遅くなります。通常の使用環境では最良でも理論値の70~80%とみてください。

 アナログの電話線はシールド(遮蔽)なしの撚り対線です。これは、周波数の低い音声信号を送るという前提で規格化されているためです。このシールドなしの撚り対線に高周波の信号を流すと、損失が発生し、通信速度が低下します。これは周波数の高い部分ほど、それから伝送距離が長いほど影響が大きくなります。

 ユーザの利用場所から局舎内のADSL端末までの距離が問題なのですが、このADSL端末が最寄りの局舎にあるかどうかは分かりません。NTTの局舎は電話線(加入者線)を引き込むところで、ADSLを想定して作られてはいないからです。ADSLの屋内端末装置(DSLAM)がある局舎はGC局といい、電話線が引き込まれている局舎はEO局といいます。ADSLは2000年代の前半に急速に普及したシステムですから、ADSLの普及が遅れている地域では、EO局にADSL端末がなく、GC局まで内部中継されている場合もあります。NTT局舎のすぐ近くだから、ADSLには最適だと思って契約をしたけれども、実は遠くのGC局まで転送されていて、速度が思ったほどは出ていないということもあり得ます。

 これ以外にもADSLが遅くなる要素はあります。遅くなる要素はノイズです。例えば通信事業者のケーブルの品質劣化によってノイズが乗ることがあります。また、ケーブルが木の枝に接触していることがノイズの原因ということもあります。あるいは、幹線道路や、送電線から放射される電磁波が原因のこともあります。ノイズが発生すると、何故遅くなるのでしょうか。それは、ノイズが発生したことを検知すると、変調方式をノイズに強い(品質劣化が起こりにくいが遅い)方式に変換するように調整し、最適な速度で再接続しようとするからです(これは、システムが自動で判断します)。

※通信品質が悪そうだということが、最初から分かっている場合は、設定段階から、低い通信速度に設定されている場合もあります。(※)たぶん、この場合には業者からの説明があると思います。

※システムが速度を自動調整した場合は、通信品質が改善した場合でも、速度が元に戻ることはありません。速度を戻すためには、ユーザが手動で再接続を行う必要があります。

VDSL

 VDSLはADSLと同様に既存の電話回線(メタル回線)を利用して、高速な通信を実現する方式です。ADSLとの違いは非常に高い周波数信号を使うことです。

 ADSLでも説明したようにアナログ電話線に高い周波数のデータを流すと損失が発生し、距離が長くなれば長くなるほど減衰が激しくなります。VDSLはADSLに比較して、更に高い周波数帯を使いますので、100m~1.5km位が目安になります。ただし、ADSLに比較すると、広い周波数帯を使っていますので、ADSLの2倍以上の速度が出ます。



 距離が非常に短いので使い方は限定されます。一般的には、マンション等の集合住宅(あるいはホテル)に光ケーブル回線を引き込んで(主配線盤までFTTH)、各戸(客室)まで(VDSLモデムまで)VDSLで接続し、各戸の内部では、イーサネットを使うという方式になります。
 新築マンションの場合は、各戸まで光ケーブルを延伸させるタイプのサービスが利用されると思いますので、だんだん下火になってくるのではないかと思われます。



それ以外のxDSL

 ADSLとVDSL以外にも、ReachDSL、CDSL、HDSL、SDSLなどの方式がありますが、日本ではほとんど普及していません。

 ReachDSLは遠距離での利用を想定した規格です。遠距離での損失が大きくならないように、高周波数帯は使用していません。そのため利用できる周波数帯が狭く、速度は最大でも960kbps程度ですが、その分距離は5-12km位まで利用できます。日本では、JANISネット(株式会社長野県協同電算)が最初に使用し、その後Yahoo! BBがサービスを提供しています。

 CDSLはADSLの安価版で、スプリッタが必要ありません。日本では、ADSLが普及したため、まったく普及していません。

 HDSLは2対の撚り対線を利用して、それぞれ送信用、受信用に使います。送信用と、受信用に同じ速度を提供できるので、対称型のDSLということになります。低周波数帯(200kHz)しか使用していないため、最高速度は2Mbps程度ですが、使用可能な線路長は20kmにもなります。現在は既設の構内電話線で利用されていますが、光ファイバの敷設が進むと、利用されることはなくなると思われます。

 SDSLは上下の速度が対称な方式です。速度は上下とも160kbps~2Mbps程度で、160kbps時の使用可能線路長は、最大6.9kmまでになります。東京メタリック通信などがサービス提供しました。光ファイバの登場で、下火になりましたが、現在でもサービスを提供している業者があります。


CATVインターネット

 普通、家庭でみられているテレビはアンテナで電波を受信しています。しかし、電波を受信しにくいとことではテレビが観られません。例えば、高層ビルの陰にあって電波が届きにくいところとか、高い山が障害物になって電波が届かないなどという場合があります。このような場合は電波ではなく、有線ケーブルを使って音声と映像の信号を送るという方法が考えられます。これがCATV(Cable TV)です。

 こう説明すると、「じゃ電波が届くところは必要ないってことね」って言われそうですが、電波が届く家でも十分にメリットがあります。

 第1に有線なので天候に左右されないということです。第2に地上波だけでなく、BSやCSなども利用できることです。映画やアニメ、スポーツなどが好きな人にはお薦めです。最近、テニスや、サッカーなどはCSでないとみられない場合が多くなっています。第3には地方にいても東京の番組が観られることです。また、東京にいてもローカル放送が見られます。

 更にCATVでインターネットを使うことも可能です。CATVでインターネットをする、つまりCATVインターネットということです。CATVインターネットはADSLによく似ています。今まで、電話をするときに使っていなかった帯域をデータの転送用に使ったのがADSLですが、CATVインターネットは、今までテレビの放送用に使っていなかった帯域の部分をインターネットに使ってしまおうというものです。

 CATVネットワークでは0~770MHzの帯域で信号をやり取りするのですが、実際にテレビ放送のために使っている帯域は90M~600MHzです。従って、0~90MHz、600M~770MHzの間は使われないまま、放っておかれていました。ここを使おうとしたのがCATVインターネットです。



 CATVインターネットでは、上りは10M~55MHzの間の任意の1.6M~6.4MHzを使用し、下りは600M~770MHzの間の任意の6MHzを切り出して利用しています。

 ADSLは収容局から遠くなると遅くなるという問題がありますが、CATVインターネットの場合は距離に関係なく使うことができます。また、ADSLは加入者宅からNTTの収容局までは、従来タイプの電話線を使いますが、CATVインターネットはノイズの影響を受けにくい同軸ケーブルを使っています。

※加入者宅からは同軸ケーブルですが、この同軸ケーブルでCATV会社まで伸ばすのではなく、基幹線まで同軸ケーブルで伸ばすということになります。この基幹線は現在光ファイバー網になっています。

 CATVでは混合分配器でテレビ信号とデータ通信の信号を、混合/分配しています。更に、変調/復調は加入者宅では混合分配器とパソコンの間にケーブルモデムを設置して行い、CATV局側では、混合分配器とルータの間にCMTSを置いて行っています。






FTTH

 FTTH(Fiber To The Home、ファイバー・トゥ・ザ・ホーム)はアクセス回線として光ファイバ(光通信)を使う方式です。

 光通信の方式は様々な利点を持っています。第1の利点は高速通信(100Mbps~1Gbps)が可能なことです。また、ADSLとは違って、NTTの収容局からの距離に関係なく、高速通信が可能です。また、グラフファイバーに光パルスを流しますので、電磁誘導によるノイズの心配もありません。

 光通信の方式では、NTTの局舎から光ファイバを引かなくてはなりませんので、工事費が膨大になります。この工事費は利用者から徴収しなくレはなりませんので、どうしても利用料金が高くなってしまいます。しかし、最近は通信会社の経営努力や、柔軟な利用プラン(例:光電話とインターネットを組み合わせると安くなる)などによって、利用料金がだいぶ安くなっています。




光アクセスの種類

 光ファイバでは光信号(光パルス)が流れていますが、この光信号はコンピュータには理解できません。コンピュータに理解できるのは電気信号です。従って、電気信号と光信号を変換する装置が必要となります。収容局側の変換装置はOLT(光加入者線端局装置)、ユーザ宅の変換装置はONU(光回線終端装置)です。

 アクセス回線に光通信を使うといっても、ONUをどこに置くかでいくつかの種類があります。FTTH(Fiber To The Home)は光ファイバを直接ユーザ宅まで引き込む形態です。

 光ファイバをマンションの共用施設(の主配線盤)まで引き込み、ここからイーサネットやVDSLなどを使って、各戸まで伸ばす形態もあります(HomePNAという方式で伸ばす場合もあります)。これはFTTB(Fiber To The Building)と呼ばれます。あるいはFTTC(Fiber To The Curb)という形態もあります。これは、地域のどこかにRT(Remote Terminal)、またはRT-BOXを設置し、そこまで光ファイバを引いて、そこからユーザ宅の間は従来の電話線で賄うという形態です(いわゆる光収容)。

※HomePNAはVDSLと似ていますが、HomePNAという団体が決めている規格です。
※マンションの各戸までFTTHを伸ばす方法もあります。これはFTTHです。
※FTTCではBフレッツも使えないし、ADSLも使えないということになります。


アクセス網構成方式(ネットワーク構成)

 収容局から各ユーザ宅までのアクセス網のネットワーク構成には専用型と共用型があります。

 専用型はSS(Single Star)方式といいます。SS方式では収容局とユーザ宅を1対1で接続しますので、加入者ごとに光ファイバを設置しなくてはなりません。各加入者はその光の伝送路を自分一人で占有することができますが、当然利用料は高くなります。また、収容局側の端末もユーザ毎に用意しなくてはなりませんので、収容スペースの問題も出てきます。




 共用型(Double Star、DS)方式は、間に中継装置を挟む方式です。中継装置で分岐させることができます。1つの光ケーブルを多くのユーザで共有することになりますので、光ケーブルの敷設費用も抑えることができますし、収容局内の伝送装置のコストなどを抑えることもできます。多くのユーザで1つの回線を共用しますので、速度は遅くなるかも知れません。

※専用回線と共用回線は局の設備で1つに束ねられ、これをコアネットワークに接続する形をとります。コアネットワークが混雑していると、専用線だから速い、共用線だから遅いとも、言えなくなります。


 共用方式には、ADS(Active Double Star)方式(AON、Active Optical Network)とPDS(Passive Double Star)方式(PON、Passive Optical Network)があります。

※NTTはADS方式、PDS方式という言葉を使っていますが、一般的にはADSはAON、PDSはPOSと呼ばれています。




 ADS(AON)方式は、中継装置が多重化装置になっています。収容局から加入者宅へのデータは、多重化されて送信され、途中の多重化装置で加入者ごとに分類されて送信されます。


 加入者から収容局へのデータは多重化装置で多重化され収容局に送られます。


 ADS方式は、多重化装置から加入者宅の装置まで既存のメタルケーブルを使うこともできます。多重化装置には給電が必要という点や、設置場所をどう確保するかの問題もあり、あまり利用されてはいません。

 PDS方式は中継装置として、光スプリッタを使用します。NTTの収容局から各ユーザ宅にはデータが多重化されて送信されますが、スプリッタはそれをそのまま(多重化された状態で)ユーザ宅にまで送信します。ユーザ宅の設置されたONUは、自分宛のデータだけを取り出して、自宅のLANに転送します。


 ユーザ宅から収容局へのデータは途中スプリッタで多重化されます。


 光スプリッタは、設備自体が安価で、給電の必要もありませんので、設置しやすいというメリットがあります。もっともよく利用さる方式です。

 以下では、最も普及しているPDS(PON)方式についてもう少し詳しく説明します。

 PDS(PON)方式の構成要素は、OLTとONU、光ファイバ、スプリッタです。OLT(Optical Line Terminal)は収容局に設置される終端装置です。インターネット側から受信した電気信号を光信号にして、ユーザ宅のONU(Optical Network Unit)に転送し、ユーザ宅のONUから受信した光信号を電気信号に変えてインターネット側へ転送する役目を持っています。

 ユーザ宅のONUは、ユーザ宅のPCやルータから受信した電気信号を光信号に変換し、OLTへ転送し、OLTから受信した光信号を電気信号に変えて、ユーザ宅内のPCあるいはルータに転送します。

 光スプリッタ1本の光ファイバを途中で分岐させる装置です。PDS(PON)では最大で32の分岐とされています(加入者は32まで)。

 PDS(PON)方式では、複数ユーザのデータが多重化されますので、多重化の仕組みが必要となります。PDS(PON)方式の多重化には、TDM、TDMA、WDMが使われます。





 TDM(Time Division Multiplexing、時分割多重化)は、収容局のOLTからユーザ宅のONU方向でのデータ送信に使われる多重化技術です。OLT➡ONUのダウンリンクでは、TDMにより複数加入者宛のデータが時間的に重ならないように多重化されて送り出されます。PDS(PON)方式では、同じOLTにつながっている他のユーザ宛のデータも転送されてきますので、ONUは自分宛のデータだけを選んで、自宅内のPCあるいはルータに転送しなくてはなりません。

 TDMA(Time Division Multiple Access、自分割多元接続)は、ユーザ宅のONUから収容局のOLTの方向(アップリンク)で使用される技術です。ONUからOLTへの信号は光スプリッタで合波されます。ONUからの送信のタイミングによっては伝送路上で衝突が発生しますので、TDMAによりONUからのデータの送信のタイミングを調整したり、送信量を制御したりします。

 WDM(Wavelength Division Multiplexing、波長分割多重)は、一芯の光ファイバで上りと下りの信号を同時に送受信できるように、上り方向と、下り方向で別々の波長を使う方式です。




日本におけるFTTH

 日本では、2001年以降、光ファイバを使ったFTTH接続が都市部で開始されました。参加した企業としては東西NTT、電力系通信事業者、USENなどがあげられます。何れも、自前の通信網を持つ大企業です。

 NTTの東西会社はアクセス回線がFTTH化される以前に、基幹中継網の光化を完了していました。
 電力系通信事業者は、日本各地域の電力会社の出資で設立された電気通信事業者、およびそれを継承した電気通信事業者です。電力系の通信事業者は既に電力業務用の光ファイバ網を自前で持っていましたので、大きな投資をすることなしにすぐに事業を開始することができました。
 USENは日本で最大手の有線ラジオの企業ですので、こちらも大きな通信網を持っています。

 これ以外では新電電(NCC)などがあげられます。1985年に日本電信電話公社(電電公社)が民営化されNTTが発足します。これは、通信市場に競争原理を導入するためです。しかし、競争原理といってもNTT一社では競争原理が働きませんので、同時に新電電と呼ばれた第二電電(DDI)や日本テレコム、日本高速通信などの会社が設立されています。

 日本テレコムは、(JRの前身の)日本国有鉄道の東海道等の新幹線沿いに光ファイバを敷設して通信事業を行うことを目的に設立されています。設立には国鉄の他に、三井物産、三菱商事、住友商事などが参加しています。現在は、ソフトバンクテレコムと名前を変えて存続しています。

 日本高速通信は高速道路の管理運用のために道路沿いに敷設した高速通信網を保有する会社ですが、後にトヨタ自動車、東京電力、中部電力などと協力して、日本移動通信という会社を作っています。

 これに対して、DDIや自前の通信網を持ちませんでしたので、ゼロから通信網の構築をしなくてはなりませんでした。しかし、DDIは後にKDD、日本移動通信などとの合併によってKDDIとなっています。

 KDDは1953年に日本電信電話公社から分離した電話会社で、法規制により、日本と海外との国際通信・国際電話を独占的に取り扱っていた会社ですので、電電公社から多くの通信資産を受け継いでいます。後にDDI、日本移動通信と合併して、KDDIとなっています。

 東京電力は東京通信ネットワーク(後にパワードコム)という会社を作っています。パワードコムは「TEPCOひかり」というブランド名で、光ファイバ事業を展開していましたが、2005年10月にKDDIと経営統合しています。その際に、ブランド名もKDDIの「ひかりone」に移行しています。

 このように多くの大企業がFTTH事業に参加していますが、2015年度の第3四半期(2015年12月)のシェアは、次のようになっています。

事業者 シェア(%)
NTT東日本 38.4
NTT西日本 31.1
その他のNTT 0.5
KDDI 12.8
ケイ・オプティコム 5.7
その他電力系事業者 2.0
九州通信ネットワーク 1.3
アルテリア・ネットワークス 2.1
その他 6.2

※総務省:電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データ(平成27年度第3四半期)(http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban04_02000104.html)

※その他のNTTにはNTT MEDIAS、NTT-ME、NTTビジネスソリューションズが含まれています。


 NTT東西は「フレッツ光」というブランド名で、サービスを展開しています。フレッツ光ネクスト、フレッツ光ライト、Bフレッツなどはフレッツ光のサービス名です。

 KDDIは、当初「ひかりone」というブランド名を使っていましたが、「au」ブランド展開の一環として、光ファイバ事業のブランド名も「auひかり」となっています。ビジネス向けのサービス名は「auひかりビジネス」です。

※沖縄県では「auひかり ちゅら ビジネス」、中部圏では「auひかり ビジネス コミュファ」というブランド名でサービス展開しています。

 ケイ・オプティコムは関西電力系列の電気通信事業者です。ブランド名は、「eo」です。個人住宅向けにはeo(イオ)、中小企業・SOHO向けにオフィスeo、法人向けのビジネス光などでサービス展開しています。

 九州通信ネットワークは九州電力系の電気通信事業者(通称はQTNet、キューティネット)です。ブランド名は「BBIQ」で、BBIQ光インターネットというサービスを展開しています。

 USENは後にUCOMという会社を発足させ、このUCOMは2014年の2月1日に丸紅アクセスソリューションに吸収されました。吸収合併の結果、発足したのがアルテリア・ネットワークスです。個人向けのサービスとしてはUCOM光、Qit光などのブランド名でサービス展開しています。


■ 光回線サービスの卸売り
 2015年2月から、NTT東西による光回線サービスが卸売りされることになりました。携帯電話では通信設備を持たない事業者は、MVNOと呼ばれますが、FTTHではFVNO(Fixed Virtual Network Operator、仮想固定通信事業者)と呼ばれ、自社ブランドでサービス提供を行っています。

 NTT東日本とNTT西日本の光回線「フレッツ光」などを借りた「FVNO」は光コラボレーションモデル(光コラボ)などと呼ばれています。光コラボでは、格安な料金設定と、多様なセット割りなどを目玉にしてサービス展開をしています。

 光コラボには「ドコモ光」(NTTドコモ)、「OCN光」(NTTCOM)、「So-net光コラボレーション」(ソネット)、ソフトバンク光(Softbank)、ビッグローブ光(ビックローブ)、U-NEXT光(ユーネクスト)、@nifty光(ニフティ)、hi-ho光(ハイホー)、o'zzio光(ピーシーデポ)、たよれーるひかり(大塚商会)、BB.excite光(エキサイト)、AsahiNet(朝日ネット)、光ギガ(ハイビット)、DTI(フレービット)などがあります。これ以外にも100社くらいの企業が、光コラボレーションに参加しています。

 たくさんありますので、どこがいいか決めるのはなかなか大変かもしれませんが、料金やキャッシュバックやセット割り、契約の拘束期間、あるいは初期費用、工事費、工事期間などによって決めていくことになると思います。


光通信システム

 光通信では信号を伝送する媒体として光ファイバ(optical fiber)を使います。光ファイバを使った通信では、搬送波の周波数や位相、振幅などを離散的に変更するような方式は使えません。光通信で使うのはデジタル変調の中でも最も単純なオンオフキーイング(OOK、on-off-keying)と呼ばれる変調方式です。これは搬送波を流すか流さないかでON-OFFを表現する方式です。搬送波がある状態が「1」で、ない状態が「0」となります。搬送波にはレーザ光のパルスが使われます。

 ONとOFFだけで1ビットを表現しますので、モールス信号のようなものですが、光ファイバの応答は電気回路よりも早いので、電気回路よりも何百倍もの速度で信号を送れば、複雑な変調を掛けなくても効率の良い通信が可能となります。


 パルスはレーザで発生させ、これを光ファイバに入力して、受信装置がそれを受け取ります。受信装置は、光検知用のトランジスタ回路です。




 光パルスは直進しますが、光ファイバケーブルが常に真っすぐに敷設されるとは限りません。従って、曲がった光ケーブルの内部を減衰することなく送信することが必要となります。これを実現するのが光の全反射です。

 屈折率の高い物質から、屈折率の低い物質に光が進むとき、入射角よりも屈折角が大きくなりますので、入射角がある程度(臨界角)以上大きくなると、光が全部反射するようになります。これば全反射です。

入射角が臨界角の場合


入射角が臨界角を越えた場合

 上の図で示した全反射を実現するために、光ファイバは、屈折率の高い物質を芯(core)として、屈折率の低い物質でこれを包み込むという構造を採用しています。屈折率の高い中心部分(コア)を包み込む部分をクラッド(clad)と言います。


 屈折率の低いコアで、屈折率の高いコアを包むことで、ある一定角度以上の入射角でパルスを入力すれば、ほとんど損失なく受信装置まで到達することができます。





WiMAX

 光ファイバ網などの高速通信回線や、xDSLなどが利用できない地域でのラストワンマイルとして期待されているのが無線によるアクセス回線です。通常、Wireless MANと呼ばれます。

 Wireless MANの規格として期待されているのがWiMAXです。Wireless MANは当初、IEEE802.16作業部会で規格化がすすめられましたが、現在は業界団体のWiMAXフォーラムも標準化を進めています。WiMAXフォーラムの標準化は、IEEE802.16作業部会の規格を基本にして、各ベンダーの製品の相互接続のための規格を追加するという形で行われています。

 WiMAX標準は、IEEE802.16-2004規格を元にした固定通信(FWA:Fixed Wireless Access)で、このIEEE802.16-2004に基地局移動に関する仕様を追加したIEEE802.16eを元にしたのがMobile WiMAXです。








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作成日          2017/03/27



































































































































































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